接骨師(読み)セッコツシ

デジタル大辞泉 「接骨師」の意味・読み・例文・類語

せっこつ‐し【接骨師】

柔道整復師のこと。

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改訂新版 世界大百科事典 「接骨師」の意味・わかりやすい解説

接骨師 (せっこつし)

俗に接骨医,整骨医などともいわれるが,正式には柔道整復師という。柔道整復師法(1970)には〈都道府県知事の免許を受けて,柔道整復を業とするものをいう〉と規定されている。柔道整復とは,外科手術によらないで経験と勘によって,もみ療治,副木,ギプス,塗布薬を用いて,骨折打身捻挫脱臼などを治療することで,民間療法の〈ほねつぎ〉に相当する。

 骨折や脱臼などの整復は古くから行われていたと考えられる。大宝律令(701)の医疾令には按摩(あんま)科の名がみえ,骨折や脱臼などの治療を行っていた。その後これらの整復は外科や戦国時代の金瘡(きんそう)医へと受け継がれた。江戸時代中期(18世紀)になって,柔術家でもあった名倉素朴が江戸に施療院を開設し,代々整復術を業とした。このため,名倉素朴は整復師の開祖とされ,整復術は〈名倉(なぐら)〉と俗称された。このように整復術は歴史的に柔道の教師が兼業したことから,〈柔道整復〉の名で呼ばれるようになった。

 柔道整復師となるには,高校入学資格を有し,かつ柔道の素養のあるものが,養成施設で4年以上,解剖学,生理学,衛生学をはじめとした,定められた知識,技能を修得した後,都道府県知事が行う試験を受けて,免許を得なければならない。なお,応急手当を除き,医師の同意を得たとき以外は,骨折や脱臼の治療は行ってはならないことになっている。
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接骨師は4000~5000年前の古代エジプトをはじめとして,多くの国に古くから存在していた。彼らは骨折を治療するばかりでなく,万病のもとと信じられた背骨のゆがみなどの矯正,坐骨神経痛の治療も手がけた。こうした接骨師の療法は,古代ギリシアの医師ヒッポクラテスもその意義を認め,健康と活力を維持する重要な技能とみなした。またインドの古代医学にはクンダリニーの説があり,脊椎の基底部に生命エネルギーの発生源があるとの考えから,整骨の術が重視された。

 接骨師はふつう,神秘的な治療力をもち,素手で患者に触れることで,これを患者に注入すると信じられた。〈手当て〉という言葉は,このような事情を今なお伝えるものであろう。また火の浄化力や金属加工技術を身につけた鍛冶屋,木を用いる大工,その他奇術を行う大道芸人なども接骨師を兼業した。しかし中世になると,接骨は手かざし治療や祈禱治療とともに,キリスト教会によって禁圧された。これらの民間療法はやがて,聖人の奇跡治療として受け継がれ,近世に伝えられている。

 近世に入ると,骨のゆがみや異常と病気の関係が詳しく研究されるようになり,19世紀にはアメリカ人のスティルA.T. Stillが〈整骨療法(オステオパシー)osteopathy〉を提唱,整骨により動脈中の血流を正し,万病を治すという試みがなされた。さらに19世紀末には,カナダ人のパーマー,D.D.Palmerが,脊椎矯正により神経への圧迫を除去する整体術〈カイロプラクティックchiropractic〉を考案し,かつての接骨師の役割を復活させた。これらは即効性をめざすのではなく,健康全般を維持することを目的とするとし,現在も医療類似行為として民間に浸透している。
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百科事典マイペディア 「接骨師」の意味・わかりやすい解説

接骨師【せっこつし】

正式には〈柔道整復師〉という。骨折,脱臼(だっきゅう),捻挫(ねんざ),打撲傷などを,整復術,ギプス・副木,マッサージ,罨法(あんぽう),薬物塗布などにより治療する人。民間療法の〈ほねつぎ〉に相当。江戸時代以降整復師を柔道(柔術)の教師が兼業したことから〈柔道整復〉の名で呼ばれるようになった。従来〈あん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師,柔道整復師等に関する法律〉で規制されていたが,柔道整復師に関する部分が切り離され,単独法として整備されて,1970年〈柔道整復師法〉が公布された。とくに養成施設への入所・入学に柔道の素養のあることが条件とされているのが特徴。

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