調書(訴訟法)(読み)ちょうしょ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「調書(訴訟法)」の意味・わかりやすい解説

調書(訴訟法)
ちょうしょ

一般的には調査の結果を書いた書類をいうが、訴訟法上は訴訟手続などの内容や経過を公証するために、裁判所その他の機関が作成する公文書をいう。

[内田武吉・加藤哲夫 2016年5月19日]

民事訴訟における調書

記載内容により種々あり、たとえば、口頭弁論調書民事訴訟法160条、民事訴訟規則66条以下)、当事者が申立てを口頭でした場合の調書(民事訴訟規則1条2項)、裁判上の和解(起訴前の和解および訴訟上の和解)または請求の放棄もしくは認諾を記載した調書(民事訴訟法267条)、弁論準備手続調書(民事訴訟規則88条1項)などである。

 口頭弁論調書は、裁判所書記官が期日ごとに作成する(民事訴訟法160条)。そして調書には、形式的記載事項として口頭弁論の形式に関する事項(民事訴訟規則66条1項各号)を記載しなければならない。また実質的記載事項としては、弁論の内容に関する事項を記載するのであるが、その内容の全部を記載する必要はなく、その要領を記載すれば足りるが、当事者の重要な訴訟行為証拠調べの結果および裁判の言渡しについてはとくに明確に記載することを要する(民事訴訟規則67条1項)。口頭弁論調書には、公文書として一定の証明力が認められている。すなわち口頭弁論の方式に関する規定を遵守したか否かについては、将来の争いを防止するため、調書の記載によってのみ証明することができる(民事訴訟法160条3項)。裁判上の和解または請求の放棄もしくは認諾を調書に記載したときは、その記載は確定判決と同一の効力を有する(同法267条)。弁論準備手続においては、裁判所書記官が準備手続調書を作成し、その調書には当事者の攻撃防御方法に関する陳述を記載し、ことに証拠の申出を明確にしなければならない(民事訴訟規則88条1項)。以上のほか、民事執行手続、破産手続、非訟事件手続、民事調停家事審判家事調停においても調書がつくられることになっている。

[内田武吉・加藤哲夫 2016年5月19日]

刑事訴訟における調書

捜査機関が作成する調書として、被疑者の供述調書、被疑者以外の者の供述調書、領置調書、実況見分調書、差押え調書、捜索調書、被疑者捜索調書、捜索・差押え調書、検証調書、身体検査調書などがあり、裁判所が作成する調書に、公判調書、証人・鑑定人・通訳人・翻訳人各尋問調書、検証調書、勾留質問調書(こうりゅうしつもんちょうしょ)、勾留理由開示調書、捜索・差押え調書、準備手続調書などがある。

 捜査機関が作成する調書のうち、とくに被疑者の供述調書が刑事訴訟法第322条第1項の規定により証拠とされる場合にその任意性が争われることがある。この点に関して、2016年(平成28)の刑事訴訟法改正により、取調べの録音・録画制度が導入され、裁判員裁判の対象事件および検察官の独自捜査事件(検察官が直接告訴・告発等を受け、または自ら認知して捜査を行う事件)について、原則として取調べの全過程の録音・録画が義務づけられた(刑事訴訟法301条の2第4項)。そして、検察官は、被告人または弁護人が被告人の供述の任意性に疑いがあるとして異議を述べたときは、その任意性を立証するため録音・録画の記録媒体の取調べを請求しなければならないものとされた(同法301条の2第1項)。

 また、裁判所が作成する調書のうち、とくに公判調書については注意すべき点がある。公判期日における訴訟手続については、公判調書が作成され、公判調書には裁判所の規則(刑事訴訟規則44条~52条)で定めるところにより、公判期日における審判に関する重要事項を記載しなければならない(刑事訴訟法48条1項・2項)。公判期日における訴訟手続で公判調書に記載されたものは、公判調書のみによってこれを証明することができる(同法52条)。すなわち、上訴審で原審での訴訟手続に関して争いが生じた場合に、新たな証明方法を許すと手続が混乱するので、このような事態を防ぐために、公判調書に排他的証明力を付与したのである。ただし、この証明力が認められるのは当該事件の訴訟手続に関する記載事項に限られる。したがって、証人や被告人の供述が記載してあっても、供述したこと自体の証明はできるが、供述内容の証明力にはかかわりはないし、また、この排他的証明力は当該事件に関する上訴審においてのみ認められるのであって、他の事件の公判調書が本条により証明力をもつことはない。

[内田一郎・田口守一 2018年4月18日]

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