検証(刑事訴訟)(読み)けんしょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「検証(刑事訴訟)」の意味・わかりやすい解説

検証(刑事訴訟)
けんしょう

人・場所・物の性質・形状を五官の作用で認識する強制処分。裁判所または裁判官によるものと、捜査機関によるものとがある。裁判所(裁判官)は、事実発見のため必要があるときは、いつでもどこでも検証をすることができる(刑事訴訟法128条)。裁判所(裁判官)が行う検証は、一種証拠調べであり、令状を必要としない。また、検証にあたっては、身体の検査、死体解剖墳墓発掘、物の破壊その他必要な処分をすることができる(同法129条)。日出前・日没後には、住居主・看守者またはこれにかわるべき者の承諾がなければ、検証のため、人の住居、人の看守する邸宅・建造物・船舶内に入ることはできない。ただし、日出後では検証の目的を達することができないおそれがある場合は、この限りではない(同法130条1項)。日没前に検証に着手したときは、日没後でも継続することができる(同法130条2項)。当事者および弁護人が立会権を有する(同法113条)ほか、住居主その他責任者を立ち会わせなければならない(同法114条)。公判廷外の検証については、調書検証調書)をつくらなければならない(刑事訴訟規則41条1項・2項、42条)。裁判所(裁判官)の検証の結果を記載した書面は、無条件で証拠能力が認められる(刑事訴訟法321条2項後段)。

[大出良知 2018年4月18日]

 これに対し、捜査機関(検察官検察事務官司法警察職員)が行う検証は、証拠の取得・保全のための強制処分であり、憲法第35条により原則として令状を必要とする(刑事訴訟法218条)。例外として、被疑者を逮捕する場合において、逮捕の現場で行う検証には令状は必要とされない(同法220条3項)。また、身柄を拘束されている被疑者について指紋・足型を採取し、身長・体重を測定し、または写真を撮影するには、被疑者を裸にしなければ令状を必要としない(同法218条3項)。弁護人に立会権はないが、捜査機関は必要があれば被疑者を立ち会わせることができる(同法222条6項)。その他の点では、裁判所(裁判官)の検証とほぼ同様であり、たとえば身体の検査、死体の解剖、墳墓の発掘、物の破壊その他必要な処分をすることができる(同法222条1項、129条、220条)。身体検査(検証の対象が人の身体である場合)は、身体検査令状によらなければならない(同法218条1項)。捜査機関の検証の結果を記載した検証調書は、後に一定の要件の下で証拠となりうる(同法321条3項)。なお、任意処分として同様の処分をなす場合を実況見分とよび、判例は、実況見分調書も同様に証拠能力を有するとしている。

 他人間の通信を、当事者のいずれの同意も得ないで傍受するいわゆる通信傍受(盗聴)について、判例は、適当な条件を付した裁判官が発する検証許可状によることが許されるとしてきたが、1999年(平成11)の刑事訴訟法改正により、通信傍受については別に法律の定めるところによるとされ(刑事訴訟法222条の2)、これにより犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(平成11年法律第137号)が制定されたので、それ以降はこの法律による傍受令状によって行われることとなった。なお、車両に使用者の承諾なくひそかにGPS端末を取り付けて位置情報を検索するいわゆるGPS捜査につき、判例は、同捜査は個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をひそかに装着するもので、強制処分にあたるとしたが、この処分を検証許可状で実施することには問題が残るとし、憲法、刑事訴訟法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい、とした(最高裁判所大法廷平成29年3月15日判決)。ただ、最高裁判所大法廷が指摘した立法的措置はまだとられていない。

[田口守一 2018年4月18日]

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