輸出保険(読み)ユシュツホケン

デジタル大辞泉 「輸出保険」の意味・読み・例文・類語

ゆしゅつ‐ほけん【輸出保険】

輸出貿易その他の対外取引で、通常の保険では救済することができない危険による損害を塡補てんぽする保険。仕向国における制度変更や戦争内乱などによって生じる為替取引・輸入の制限禁止・途絶などから輸出業者・輸出品生産者・融資銀行などを保護するためのもので、政府が引き受ける。

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精選版 日本国語大辞典 「輸出保険」の意味・読み・例文・類語

ゆしゅつ‐ほけん【輸出保険】

〘名〙 外国において実施される為替取引の制限または禁止、仕向国が実施した輸入の制限または禁止、戦争による為替取引の途絶など、通常の保険で救済できない危険を補償する国営の保険。普通輸出保険輸出代金保険輸出手形保険などがある。昭和六二年(一九八七)の法改正により、貿易保険と改称された。

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改訂新版 世界大百科事典 「輸出保険」の意味・わかりやすい解説

輸出保険 (ゆしゅつほけん)

広義には貨物の輸出に係るすべての保険を指すが,通常は私企業である保険会社の担保能力を超える危険を付保する政府の輸出信用補償を指す。このような危険には戦争,革命,動乱,地震,洪水あるいは輸入国のモラトリアム支払猶予令)や輸出入禁止令など国権の発動によって輸入業者が支払不能になる〈非常危険〉や,輸入業者の破産債務不履行,支払遅延などの〈信用危険〉あるいは為替相場の変動リスクなどがある。ただし信用保険に関し事故が発生して保険金の支払を受けると,その外国輸入業者向けの輸出に係る付保は停止されるため,輸出取引の継続性の観点から保険金の支払申請は制約を受けることがある。また一般にモラトリアムが発動された国に対する輸出については,輸出保険の引受けが制限される。

 戦後,日本の輸出保険は1950年公布の輸出保険法に基づき運営されてきたが,その後数次にわたる改正が行われ,とくに87年には対外取引に係るいくつかの政府保険制度が統合されて貿易保険法(1988年4月施行)となり,さらに97年にも改正された(1998年4月施行)。この貿易保険法は〈外国貿易その他の対外取引において生ずる為替取引の制限その他通常の保険によって救済することができない危険を保険することによって,外国貿易その他の対外取引の健全な発達を図ることを目的〉(1条)としている。このように法律名は貿易保険法であるが,その中心は輸出保険である。

貿易保険法のもとで政府は次のような貿易保険を引き受け,その損失を塡補(てんぽ)している。(1)普通輸出保険 輸出契約が成立してから代金回収までの間,非常危険・信用危険により輸出が不可能になった場合などの保険。(2)輸出代金保険 資本財の輸出,技術の提供あるいは輸出代金の貸付けなどに関し,非常危険・信用危険により,その代金・対価貸付金の回収が不可能になった場合の保険。(3)為替変動保険 米ドル,英ポンド,ドイツ・マルクなど特定の外国通貨で表示された設備機材・船舶・車両などの輸出あるいは技術の提供に関し,保険契約申込日から一定期間内に支払期限が満了する取引について,その間に為替相場が3%を上回って変動した場合の保険(その3%を上回る分が塡補される)。(4)輸出手形保険 銀行などが買い取った荷為替手形が満期日に支払われなかった場合の保険。(5)輸出保証保険 プラント輸出,海外建設工事などに係る輸出・技術提供・労務提供などに関し,入札保証や契約保証をした銀行などがその保証債務を履行した場合の保険。(6)前払輸入保険 前払金を受領した外国の輸入者が非常危険・信用危険によって輸入が不可能となり,その前払金の返還を受けられなかった場合の保険。(7)仲介貿易保険 仲介貿易契約に基づいて貨物を販売または賃貸した場合,非常危険・信用危険によりその代金・賃貸料を回収できなかった場合の保険。(8)海外投資保険 海外直接投資,海外関連企業への長期貸付けなどに関し,海外投資やそれに係る保証を行った場合,非常危険・信用危険により元本・配当金,その他債権・資産の回収などが不可能になった場合の保険。(9)海外事業資金貸付保険 海外事業資金の貸付けあるいはその債務保証に関し,非常危険・信用危険により元本・利子の回収が不可能となったり,保証債務を履行した場合の保険。
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百科事典マイペディア 「輸出保険」の意味・わかりやすい解説

輸出保険【ゆしゅつほけん】

輸出貿易に伴う危険のうち,海上保険・火災保険などで救済されないもの(仕向国の貿易制限,戦争など)を担保し,輸出業者や融資銀行の損失を補償する保険。日本では輸出保険法(1950年)に基づき,普通輸出,輸出代金,為替変動,輸出手形,輸出金融,輸出保証,委託販売輸出,海外広告,海外投資の各保険を政府が経営。1987年の法改正にともない,貿易保険に引きつがれた。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「輸出保険」の意味・わかりやすい解説

輸出保険
ゆしゅつほけん
export insurance

輸出取引の円滑な推進のため,輸出取引に伴う危険で,普通の保険によっては救済できないもの (相手国の貿易制限,為替制限,戦争,内乱など) による輸出者の損失を,輸出保険法 (昭和 25年法律 67号) に基づいて政府が補償する国営保険の総称。方法として,(1) 政府が直接輸出業者に対して行うもの,(2) 政府が銀行による輸出金融に対して補償するもの,(3) 政府が保険会社の引受けた輸出保険の再保険に応じる形のものの3つがある。

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世界大百科事典(旧版)内の輸出保険の言及

【カントリー・リスク】より

… カントリー・リスクは予測が難しいために,先進国では輸出の円滑化や自国資本の保護のためにカントリー・リスクに対し国家的保障(オフィシャル・サポート)を設けている。日本では,プラントを中心にした輸出金融に対しては輸出保険制度や日本輸出入銀行(輸銀)融資制度があり,海外投資に対しては海外投資保険制度や輸銀投資金融制度がある。カントリー・リスクの発生する範囲も政治,経済,社会,金融,外交などきわめて広いため,その情報源として単純で利用可能なルートはありえない。…

【損害保険】より

…船舶保険では船舶自体の損害のほか,船舶衝突損害賠償,共同海損費用や船舶不稼働の利益損害等も塡補される。 なお公営の保険である労働者災害補償保険(政府労災),貿易保険(輸出保険)など(国が事業主体となっている)や中小企業信用保険,農業信用保証保険など(政府関係機関が事業主体となっている)も,損害塡補の保険という意味で損害保険といえる。また損害保険同様の制度として農業協同組合や生活協同組合などが実施している共済事業がある。…

※「輸出保険」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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