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モラトリアム moratorium

翻訳|moratorium

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

モラトリアム
moratorium

政府が法令をもって銀行預金を含むすべての債務支払い一定期間だけ猶予すること。戦争天災恐慌などの非常事態に際し,債務の不履行による金融上の混乱を未然に防止するために実施される。日本では 1923年の関東大震災直後,および 27年の金融恐慌当時実施されたことがあり,また第2次世界大戦後は 46年に金融緊急措置令 (昭和 21年勅令 83号) により,インフレーション高進を阻止するため,同年2月に預金が封鎖され,法令で認められた生活費,給与,事業費などについて一定額の引出しを認めた。欧米では 33年におけるアメリカの例がある。なお国際的なモラトリアムとしては,31年にアメリカの H.フーバー大統領が,ヨーロッパ諸国の対アメリカ戦債について1年間の支払い猶予を与えた例がある。

モラトリアム
moratorium

E.H.エリクソンの提案した精神分析学の用語。本来は「支払い猶予期間」の意であったのを転じて,社会的責任を一時的に免除あるいは猶予されている青年期をさす。生きがいや働きがいを求め,発見するための準備を整える一方,自分の正体,アイデンティティを確定できず,無気力,無責任,無関心など消極的な生活に傾きながら,自我同一性を確立してゆく。小此木啓吾によれば,現代人には,この猶予期間を引延ばし,大人になろうとしない「モラトリアム人間」 moratorium personalityの傾向が強い。その背景には,社会の変化が加速度的であり,アイデンティティを見つけきれないという現実があるといわれる。

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知恵蔵の解説

モラトリアム

人間の発達を可能にする準備期間のことで、エリクソンが命名した。青年が社会人としてのアイデンティティーを確立するために様々な役割を試み模索することを、社会は心理・社会的猶予期間(psycho‐social moratorium)として認めていると考えた。しかし、高学歴化が進み、性的に成熟しながらも親に経済的・精神的に依存する状態が長引く現代の日本社会では、モラトリアムが本来の意味を失い、社会的責任回避の意味合いが強くなる。自意識過剰になり、社会人としての同一性選択を回避し、無気力になり、友人関係に不安を抱くなど、エリクソンが同一性拡散として記述した事柄は、長期化するモラトリアム社会の危険性を表してもいる。

(田中信市 東京国際大学教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

デジタル大辞泉の解説

モラトリアム(moratorium)

支払猶予。法令により、金銭債務の支払いを一定期間猶予させること。戦争・天災・恐慌などの非常事態に際して信用制度の崩壊を防ぎ、経済的混乱を避ける目的で行われる。
製造・使用・実施などの一時停止。核実験原子力発電所設置などにいう。
肉体的には成人しているが、社会的義務や責任を課せられない猶予の期間。また、そこにとどまっている心理状態。

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百科事典マイペディアの解説

モラトリアム

法令により一定期間,債務の支払を猶予すること。戦争や恐慌などの非常事態に際し,経済界ことに金融界が重大な打撃をこうむり債務履行が困難となった場合に実施される。日本では関東大震災や1927年金融恐慌のときに実施。
→関連項目金融緊急措置令昭和恐慌高橋是清田中義一内閣

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ナビゲート ビジネス基本用語集の解説

モラトリアム

青年が社会で一定の役割を引き受けるようになるまでの猶予期間のこと。心理学者E.H.エリクソンが提唱した概念。日本では、精神科医 小此木啓吾のモラトリアム人間論によって広く知られるようになった。 もともとは法律用語で、戦争や天災などの非常時に金融機関で生じる混乱を防ぐため、政府が債務や債券の決算を一時的に停止・猶予する期間を与えること。また、その猶予期間をさす。 エリクソンは、このモラトリアムという言葉を心理学に転用し、青年期を「心理社会的モラトリアム」と定義した。彼によれば、青年期とは大人になるまでの見習い修業期間であり、社会が青年に対して社会的責任や義務の決済を免除する期間である。青年は自他ともに認める半人前であり、そのことに対する負い目から、早く大人になろうと努力するという。 これに対し小此木は、大学進学率の上昇や大衆消費社会の到来などを背景に、今や青年期は大人になるまでの見習い期間という本来の性格を失っているという。青年は、一刻も早くモラトリアムを脱して大人が体現している古い価値を継承しようとするよりも、自分が何者でもない状態に積極的にとどまろうとし、消費主体として常に新しいものを探求する。こうした特徴をもつ人々を、小此木は「モラトリアム人間」と呼んだ。

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世界大百科事典 第2版の解説

モラトリアム【moratorium】

政府が法令に基づいて債務の支払を一定期間猶予させることで,〈支払猶予〉と訳される。転じて,義務履行の猶予期間や(敵対・危険活動の)一時的停止の意味にも用いられる。国民経済が正常な状態にあるときには取引は信用のうえに立って円滑に進行するが,戦争,天災,恐慌などの異常事態に際しては信用の回転が円滑でなくなる。たとえば銀行は債権回収の見込みがたたない一方,預金はその性質上ただちに支払の請求に応じなければならないので銀行取付け休業に追い込まれやすく,また一般債権の回収を強行すれば企業の連鎖倒産などの懸念が生じる。

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大辞林 第三版の解説

モラトリアム【moratorium】

戦争・恐慌・天災などの非常時に、社会的混乱を避けるため法令により金銭債務の支払いを一定期間猶予すること。支払い猶予。
知的・肉体的には一人前に達していながら、なお社会人としての義務と責任の遂行を猶予されている期間。また、そうした心理状態にとどまっている期間。
実行・実施の猶予または停止。多く、核実験や原子力発電所設置についていう。

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世界大百科事典内のモラトリアムの言及

【青年】より


[引き延ばされた青年期]
 産業社会の進展は,青年期を引き延ばしつつ,青年期後期をそれ以前の青春期adolescenceから区別される独自のユースyouthの時期に造型してきた。ユースとしての青年は,産業社会のモラトリアム(人生の免責・猶予期間)の矛盾が生み出した存在といえる。すなわち産業社会は,生産力を増大して,一方では,すでに性的に成熟した個体が,成人の負う社会的責任や義務を免除され,自由な遊びと実験の中にアイデンティティ(自己の存在証明,自己同一性)の形成におもむくモラトリアムを社会的に制度化するとともに,他方ではそのモラトリアムを主として学校教育に編入し,アイデンティティの自由な振幅を禁圧して,勤勉,合理性,競争,独立性,能率などを偏重する技術主義的な自我を育成しようとする。…

※「モラトリアム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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