駆込(読み)かりこむ

精選版 日本国語大辞典 「駆込」の意味・読み・例文・類語

かり‐こ・む【駆込】

[1] 〘他マ下二〙 むりに追い立ててある物の中へ入れる。追いこめる。
太平記(14C後)一二「内海外海の龍神共、悉く守敏呪力を以て、水瓶の中に駆籠(カリコメ)て」
[2] 〘他マ四〙 (一)に同じ。
浮世草子武家義理物語(1688)五「此度御下(した)百姓迄もかりこまれしが」

かっ‐こ・む【駆込】

〘自マ四〙 (「かけこむ(駆込)」の変化した語) 駆けてはいる。逃げこむ。また、はいりこんでくる。
洒落本・船頭部屋(19C初)鳥居町舟宿の套「かし蔵のひあわいから、あしばやにかっこみ、いきなりにこたつへむぐりこむ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「駆込」の意味・わかりやすい解説

駆込 (かけこみ)

欠入,走入とも称し,人に追われて逃げ場を失い,近辺屋敷寺院などに避難して保護を受ける行為,またそのような行為が社会的に定型化されたものとしての慣行をいう。日本の中世近世社会に広く見られるものである。江戸時代,鎌倉松ヶ岡の東慶寺や上野国世良田の満徳寺が縁切寺として,寺内へ駆け込んだ女性に離婚の成立する慣行があったことはよく知られている。また奥州の守山藩では罪を犯した百姓たちが,その菩提寺などに駆け入り,〈寺抱え〉となることによって藩の処罰をうけずにすむ慣行が存在していた。このほかに,過失から出火をなした者が付近の寺院に入って謹慎した(〈火元入寺〉と称する)のも駆込の一種とみられる。駆込慣行はまた武家の屋敷をも対象にしてなされており,離縁を求める女性が武家屋敷に駆け込んで希望をかなえるもの,主人の手討ち成敗から逃げ出した下僕が他家の屋敷に駆け込んで保護を求めるもの,そしてけんか闘争から他人を討ち果たした武士が近辺の武家屋敷に駆け込んで保護を求めた場合,屋敷の主は責任をもって追捕の手からこの者を守らねばならず,安全なときに安全な場所に落ち延びさせるという慣行が江戸時代を通じて広く行われていた。これらの慣行にあっては,駆込者を受け入れる寺院や屋敷に外部からの追及を遮断する力能が存在しているのであって,このような不可侵的な領域は一般にアジール(逃避所)と呼ばれ,日本の前近代社会のみならず世界各地に見られるものである。
アジール
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の駆込の言及

【アジール】より

…寺院にアジールを意味する遁科屋(たんかや)と称する建物のあったこと,また高山寺の明恵上人が北条泰時に〈敗軍の兵士来りなば袖の下,袈裟の裏なりとも隠してとらす〉と自らの命を賭した話は,寺院のアジールを顕著に現している。これは寺への駆込みによって,世俗の権力や権利義務関係からも絶縁するという〈無縁〉の原理にささえられ,しかも不入の権とあいまって,室町時代末期から戦国時代にかけて諸国に普及し,分国大名の菩提寺などが〈無縁所〉としてアジールの特権を与えられた。しかし各分国内の政治的統一が強化されるとともに,この特権も,楽市・楽座などの特権と同様に,しだいに制限され否定されるに至った。…

※「駆込」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」