翻訳|astatine
周期表17族ハロゲン元素の一つで放射性元素。古くモナズ石中からその存在が発見されたとしてアラバミンとよばれたことがあるが、これはその後否定され認められていない。1940年アメリカの放射線研究所(現、ローレンス・バークレー国立研究所)のコーソンDale R. Corson(1914―2012)とマッケンジーKenneth R. MacKenzie(1912―2002)とセグレは、ビスマス209に高エネルギーのα(アルファ)粒子を当ててアスタチン211を得た。不安定な同位体をもつ唯一のハロゲンなので1947年ギリシア語の不安定を意味するastatosにちなんで命名された。ウラン、トリウム系列の崩壊生成物として天然に極微量存在するが、いずれも半減期1分以下の短寿命である。約20種の同位体が知られているが、普通得られるのはアスタチン210(半減期8.3時間)およびアスタチン211(半減期7.2時間)である。
化学的性質はヨウ素に似ているが、ヨウ素よりも金属性が強い。酸化数-Ⅰ、Ⅰ、Ⅲ、Ⅴ、およびⅦの化合物をつくる。単体は室温で揮発性のある固体。水に溶ける。水溶液は安定で、ベンゼン、四塩化炭素などで抽出できる。二酸化硫黄や亜鉛で還元されてAt-を生じ、水中で臭素あるいは鉄(Ⅲ)で酸化されてAtO-を生成する。
[守永健一・中原勝儼]
At.原子番号85の元素.電子配置[Xe]4f 145d106s26p5の周期表17族人工放射性ハロゲン元素.ギリシア語の“不安定”を意味するαστατοσから名づけられた.1940年,カリフォルニア大学でD.R. Corson,K.R. MacKenzie,E. SegréによってBiをα粒子で衝撃して得られた.現在,知られている同位体核種は,194~223の範囲に核異性体を含めて41種.質量数210の核種がもっとも長寿命で半減期8.1 h.211Atは7.2 h,209Atは5.4 h.209Atと210Atは主として β+ 崩壊,211Atは β+ 崩壊とα崩壊がほぼ同じ割合で起こる.天然にも,ごく微量の218Atがウラン系列,215At,219Atがアクチニウム系列,216Atがトリウム系列の分岐中間崩壊生成核種として存在する.Biのα粒子衝撃後,ターゲットから昇華法で比較的長寿命の209,210,211Atが得られるが,化学実験用のトレーサーとしてしか用途はない.融点302 ℃,沸点337 ℃ のハロゲン.一般的性質はヨウ素に似るが,ヨウ素より金属性である.ヨウ素と同様,人体に入ると甲状腺に集中する.ハロゲン間化合物AtCl,AtBr,AtIが合成された.酸化数-1,1,3,5,7.水に微溶,ベンゼン,四塩化炭素,二硫化炭素に可溶.[CAS 7440-68-8]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
周期表ⅦB族ハロゲン元素に属する放射性元素。1940年にコーソンD.R.Corson,マッケンジーK.R.Mackenzie,セグレE.Segrèが,30MeVのα粒子によりビスマスを衝撃して人工的につくり出した。のちギリシア語の不安定を意味するastatosにちなんで命名された。20種の同位体があり,最も寿命の長いのは210At(半減期8.3時間,電子捕獲およびα崩壊)である。いくつかの同位体が天然にもごくわずかに存在することがのちに知られた。常温では固体で揮発性があり,ヨウ素に似ているが,さらに金属性が強い。水にわずかに溶け,二硫化炭素や四塩化炭素に溶ける。二酸化イオウで還元されてAt⁻,臭素酸化されるとAtO⁻(強く酸化されるとAtO3⁻が生ずるとも推定されている)となる。HAt,CH3At,AtCl,AtBr,AtIなどの化合物が知られている。
執筆者:大瀧 仁志
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…天然に存在せず,人工的方法(核反応)によってのみ作り出される元素をいう。ふつう,周期表上原子番号43のテクネチウムTc,61のプロメチウムPm,85のアスタチンAt,87のフランシウムFr,および93のネプツニウムNp以降の諸元素(超ウラン元素)を人工元素とみることが多い。しかし,この定義は厳密なものとはいえない。…
※「アスタチン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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