正極活物質に空気中の酸素を用いるアルカリ一次電池の一種。負極活物質に亜鉛、電解液には水酸化カリウムの30%水溶液を結着剤でゲル化したものを用いたボタン形の空気亜鉛一次電池が生産されている。1917年フランスのフェリーCharles Féry(1865―1935)が考案した。
空気電池は空気正極として燃料電池用に開発された多孔質の薄いガス拡散電極を用い、電解液、触媒、セパレーターおよび負極活物質の亜鉛粒子などから構成されている。正極活物質を電池内に保持する必要がないので、その分負極活物質の亜鉛量を増すことができ、高容量化を図ることができる。正極反応は
O2+2H2O+4e-―→4OH-
負極反応は
Zn+2OH-―→Zn(OH)2+2e-
であるので、全電池反応は
Zn+1/2O2+H2O―→Zn(OH)2
であり、起電力は1.65ボルト、実際の電池電圧は1.4ボルトが得られる。正極における酸素の還元反応を促進するために、銀、二酸化マンガン、ニッケル‐コバルト複合酸化物、フタロシアニン系化合物、白金などが触媒として用いられる。また負極用の亜鉛は水素過電圧を高くして自己放電を抑制するため、ほかの金属と合金化されている。
電解液にアルカリ水溶液を用いると空気中の炭酸ガスによる劣化があるため、弱酸性の塩化亜鉛水溶液を用いた空気亜鉛電池も開発されている。この場合の全電池反応は
4Zn+2O2+ZnCl2+4H2O
―→ZnCl2・4Zn(OH)2
で示される。放電電圧が長時間にわたり平坦(へいたん)であり、水銀電池と互換性があるので従来水銀電池が使用されてきた補聴器などにボタン形空気亜鉛電池が用いられるようになった。なお、1993年(平成5)の日本工業規格(JIS)「アルカリ一次電池」(JIS C 8511)の改正により「水銀電池」が規格から削除され、その代替品として使用されるようになった「空気亜鉛電池」が規格に加えられた。さらに、98年には「ボタン形空気亜鉛電池」の規格がなされている。
また、金属空気電池の一つとして亜鉛空気蓄電池もつくられているが、充電するとき必要のない空気極までも充電され劣化してしまうので、亜鉛負極の充電のみを別の電解層で行い、負極を取り替える機械的充電などが行われている。
[浅野 満]
『小久見善八編著『電気化学』(2000・オーム社)』▽『電気化学会編『電気化学便覧』(2000・丸善)』▽『電池便覧編集委員会編『電池便覧』(2001・丸善)』
空気中の酸素を利用する一次電池.ルクランシェ電池などの一次電池では,正極活物質としてMnO2,K2Cr2O7などの酸化剤を用い,その還元反応を利用しているが,空気電池では空気中の酸素を炭素の正極に吸着させ,
O2 + 2H2O + 4e- → 4OH-
なる反応を正極反応とする.正極炭素は堅炭の粉末を主剤にして,活性炭,AlCl3,ZnCl2などの賦活剤を加え,タールで成形して焼成し,パラフィン薄膜で電解液の浸透防止をした多孔性電極である.負極にはおもに亜鉛が用いられる.Féry空気電池は20% NH4Cl水溶液を電解液とするもので,ルクランシェ電池の変形と考えられる.電池反応は,次式で表され,起電力は1.4~1.45 V である.
Nieberg空気電池は20% 水酸化ナトリウム水溶液を電解液とし,電池反応は,次式で表される.
起電力は1.4~1.5 V である.空気電池は空気中の酸素を利用するので,正極物質の占める容積を考慮する必要がなく,エネルギー密度の大きい電池作成に適している.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
陽極に活性炭電極を使用して空気を陽極活物質とする一次電池で,陰極には亜鉛,通常,電解液には塩化アンモニウム-塩化亜鉛の混合水溶液が用いられる(苛性アルカリを用いる場合もある)。乾電池と湿電池があり,乾電池では液にデンプンを入れて糊化させる。電解液に塩化アンモニウムを用いる空気電池の起電反応は
Zn+2NH4Cl+1/2O2─→Zn(NH3)2Cl2+H2O
で,起電力は陽極の炭素の種類によって多少の差はあるがだいたい1.45Vである。マンガン乾電池にくらべ重量が30~40%軽い。使用時に電圧変動が少ないが大電流を取り出すのには向かず,軽負荷用として用いられている。
燃料電池の研究から生まれた新型の空気電池として,活性炭に触媒を添加しポリフッ化エチレンのようなバインダー兼撥水(はつすい)剤で結着させた陽極,粉末亜鉛陰極,アルカリ電解液を用いたボタン形の電池が現れた。この電池は5mA/cm2程度の重負荷放電も可能で,補聴器などの携帯用電子機器の電源として有望である。
執筆者:笛木 和雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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