日本大百科全書(ニッポニカ) 「イオン重合」の意味・わかりやすい解説
イオン重合
いおんじゅうごう
ionic polymerization
重合反応の一形式で、成長していく連鎖の末端がイオンであるものをいう。それがラジカル(遊離基)であればラジカル重合である。
カチオン重合とアニオン重合
成長末端イオンの種類によってカチオン(陽イオン)重合とアニオン(陰イオン)重合とに区別される。カチオン重合は、重合するビニル基に電子を押し込むような置換基(電子供与性基)の存在したときにおこる。たとえばビニルエーテルなどである。アニオン重合(陰イオンであるアニオンが反応の原動力となるイオン重合)は、電子受容性基をもつビニル化合物、たとえばアクリロニトリル、メタクリル酸メチルなどにおこりやすい。スチレン、ラクトン、エポキシ樹脂などはカチオン、アニオンの両方の重合が可能である。イオン重合はラジカル重合に比べて反応がおこりやすく、低温での重合が可能である。重合速度や重合度は、反応系の溶媒の極性(分子中で正負の極が偏る度合い)によって支配される。なお、電子供与性基と受容性基とは、ビニル化合物の二重結合の電子密着を大きくする基と小さくする基をいう。前者はOCH3やCH3など、後者は-CN-COOH、-COORなど。
カチオン重合では広い意味の酸が、アニオン重合では塩基が触媒となり、いろいろな単量体(モノマー)との組合せで重合がおこる。しかし重合の停止ははっきりせず、重合終了時においても重合体末端に活性種をもっているリビングポリマー(比較的寿命の長いラジカルやイオンをもつポリマー成長鎖末端)をつくることが多い。また、少量の水や空気の存在は重合を妨害することが多々ある。
[垣内 弘]
『高分子学会編『高分子機能材料シリーズ1 高分子の合成と反応1』(1992・共立出版)』▽『井上賢三ほか著『高分子化学』(1994・朝倉書店)』▽『青木俊樹ほか著『物質工学講座 高分子合成化学』(1995・東京電機大学出版局)』▽『井上祥平著『化学新シリーズ 高分子合成化学』(1996・裳華房)』▽『中条善樹著、井上晴夫ほか編『基礎化学コース 高分子化学1 合成』(1996・丸善)』