改訂新版 世界大百科事典 「イタヤガイ」の意味・わかりやすい解説
イタヤガイ (板屋貝)
scallop
Pecten albicans(=P.laquetus)
殻の表面が開いた扇状をなすイタヤガイ科の食用二枚貝。俗にホタテガイというが,本当のホタテガイは東北地方や北海道に分布する別種。殻の長さ12cm,高さ10.5cm,膨らみ3.5cmで,左殻は平らで褐色,右殻はよく膨らみ白色の個体が多い。幅広で低い放射肋が8~12本ある。両殻のかみ合せはまっすぐで長い。幼貝は成長すると地物に足糸で付着せず自由生活をし,両殻を激しく開閉して跳ねるように泳ぐ。閉殻筋(貝柱)は体のほぼ中央に一つあって白くて大きく,食用にする。外套(がいとう)膜の縁には短い触手があり,その間に眼がある。雌雄同体で産卵期は2~3月。北海道南部以南,韓国,中国沿岸の水深10~50mの細砂底にすむが,玄海灘や山陰地方ではときどき大発生をする。貝柱は美味で塩ゆでし,売られる。近似種のハナイタヤガイP.sinensisは殻はやや小型で左殻の膨らみはいっそう強い。地中海のジェームズホタテガイ(ジェームズイタヤガイSt.James shell)P.jacobaeusは巡礼貝(英名pilgrim shell,イタリア名cappasanta)ともいわれ,十字軍の従軍記章にされたので名高く,またボッティチェリの絵画《ビーナスの誕生》でビーナスが乗っている貝もこの種である。
執筆者:波部 忠重
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報