イッヒロマン(読み)いっひろまん(その他表記)Ich-Roman ドイツ語

デジタル大辞泉 「イッヒロマン」の意味・読み・例文・類語

イッヒ‐ロマン(〈ドイツ〉Ich-Roman)

《イッヒは「私」の意》主人公一人称自身体験生活を語る形式小説。19世紀初めのドイツ文学に流行した形式。ゲーテの「若きウェルテルの悩み」など。一人称小説。

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精選版 日本国語大辞典 「イッヒロマン」の意味・読み・例文・類語

イッヒ‐ロマン

  1. 〘 名詞 〙 ( [ドイツ語] Ich-Roman ) 作中の主人公が「私は(Ich)」という一人称で物語る形式の小説。一九世紀初めのドイツ文学に流行した形式。ゲーテの「若きウェルテルの悩み」など。一人称小説。〔音引正解近代新用語辞典(1928)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イッヒロマン」の意味・わかりやすい解説

イッヒ・ロマン
いっひろまん
Ich-Roman ドイツ語

ドイツ語で「私(わたくし)」小説、すなわち第一人称形式小説のこと。この形式では主人公が「私」の姿で登場し、すべてが「私」の視点から物語られる。しかし、主人公の「私」は作者自身ではなく、この形式の小説がそのまま自伝、もしくは体験告白の書ではない(この点、日本のいわゆる「私(し)小説」とは異なる)。ここで問題になるのは、むしろ純粋に物語技法であって、主人公と作者とがあたかも一体であるかのような仮象を与えることにより、物語の迫真性が増し、また主人公の心理描写の可能性が拡大されるのである。この形式が初めて生じたのは、17世紀スペインのピカレスク小説悪者小説)とされるが、やがて近代小説の特性に合致する手法として広く用いられるようになった。近代精神の発展につれて、物語文学では、かつての古代中世叙事詩で典型的にみられるような全体性および客観性にかわって、叙述の個人性および主観性が求められるようになり、小説の主役を「私」として設定することによって、この要求に大幅に応じることができたのである。この用語に対して、ドイツ語では通常の第三人称形式小説をエァ・ロマンEr-Romanすなわち「彼(かれ)」小説と称する。

[義則孝夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イッヒロマン」の意味・わかりやすい解説

イッヒ・ロマン
Ich-Roman

一人称で記述される小説をいうドイツ語。日本の私小説が心境描写に重きをおくのと違い,主人公の体験や運命を個性の成長過程として描いている。対立する語にエア・ロマン Er-Roman (「彼」小説) がある。

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