改訂新版 世界大百科事典 「イフガオ族」の意味・わかりやすい解説
イフガオ族 (イフガオぞく)
Ifugao
フィリピン,ルソン島北部,コルディリエラ山脈東部に位置するイフガオ州一帯に住むプロト・マレー系の少数民族。人口13万(1975)。標高1000~1500mの山腹に,泥壁あるいは石垣を築いて棚田を作り,水稲耕作を行うことで知られる。特にバナウエ周辺の景観は有名である。稲作は社会的・宗教的に重要な意味を持ち,農作業の各段階に応じたさまざまな儀礼が発達している。また棚田や水牛の所有数によって貧富の格差が見られ,米の生産余剰を持つ富裕層,棚田をほとんど持たない貧困層,およびその中間層という階層化が見られる。米を自給できない家族の場合,焼畑にサツマイモなどを植えて代用食としている。集落は棚田の近くなどに数戸から20戸前後ずつ散在し,その住居は4本の支柱に支えられた高床式で,内部に炉のある一間の家屋を基本とする。居住単位は夫婦と未婚の子どもたちから成る核家族が普通であるが,かつて子どもたちは一定年齢(10歳前後)に達すると,アガマンと呼ばれる男女それぞれの共同寝所で寝泊りした。売買,貸借,相続,水の権利,および紛争処理の手続などに関する厳格な慣習法を持つが,社会全体を統合する政治組織や首長は存在しなかった。父方,母方の第3イトコまでの親族によって構成されるいわゆるキンドレッドが,日々の生活,農耕儀礼,そしてかつて頻繁に行われた首狩りや紛争などに際して重要な機能を有した。彼らの宗教観念によれば,天空,地上,地下,川上,川下の五つに世界は分かれ,名前を持つものだけでも1000以上といわれる神々や諸精霊が,かなり整然としたヒエラルヒーをもって存在している。祖霊は,しかるべき慰撫を怠ると生者の魂を抜き取って病気を引き起こすと考えられており,そうした病気に際しては巫者によって治病儀礼が行われる。
執筆者:清水 展
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報