(1)中央海嶺における大洋底の生成,(2)海底と大陸の水平移動,(3)海溝に沿う海底の沈み込みsubductionと島弧の活動,(4)大陸と大陸の接近・衝突と褶曲(しゆうきよく)山脈の形成のそれぞれは,現在の地球上では異なった場所で起こっているが,長い地質時間の間には一つの地域においても,これらはプレート運動のサイクルの一環として繰り返して発生すると考えられる。このサイクルはプレートの運動状態が海底の記録から復元できる過去2億年間ばかりでなく,古生代またはそれ以前(2億年以前)の地質現象にもあてはまる。この考えはカナダのウィルソンJ.Tuzo Wilson(1908-93)によって1960年代以来繰り返し主張されてきたが,その正当性は最近広く認められるに至った。そこで75年1月に開かれた全米地質学会GSAのペンローズ会議において,このサイクルをウィルソンサイクルと呼ぶことが提案され,採用された。
例えば,現在の大西洋が約2億年前に裂け始め,しだいに拡大して現在の大きさになったことは大西洋の海底の研究から証拠立てられているが,これを古生代にも延長して,古生代初期(約6億年前)にも古大西洋Proto-Atlantic Oceanが存在したと考える。そして,約5億年前から古大西洋の北米大陸側にサブダクション帯を生じて古大西洋は閉じ始め,3億7000万年前までには完全に閉じて北アメリカとヨーロッパ・アフリカは衝突して造山帯をつくったとする。この山脈が大西洋が再び開いた現在のアパラチアやカレドニアの褶曲山脈である。
太平洋では古生代には東西両縁で縁海が開いたり閉じたりしたほか,南半球にあったとされる幻の超大陸パシフィカPacificaがちりぢりに裂けて移動し,東西の各大陸に次々と付加されたとの考えが提唱されている。
ウィルソンサイクルの考えの基本は,古生代またはそれ以前にもプレートテクトニクスは成り立つとする点にある。古生代以前の証拠は海底には残されていない(サブダクション帯から沈んで消滅してしまった)ので,陸上にみられる過去のプレート境界(縫合帯suture zone)と,それに沿って残っている古海洋岩石(オフィオライト)などの研究から過去のプレート運動の様相が復元されつつある。この手法によって,かつて地向斜と呼ばれていた場所のできごとを含めた多くの地質現象を統一的に説明することができる。
執筆者:小林 和男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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