海溝(読み)カイコウ

デジタル大辞泉 「海溝」の意味・読み・例文・類語

かい‐こう【海溝】

比較的急な斜面に囲まれた、細長い深海底の凹地。多くが深さ6000メートル以上を示し、長さは数百キロから数千キロに及ぶ。海洋プレートが沈み込む境界と考えられ、陸側は地震活動が活発。トレンチ(trench)。→トラフ
[補説]世界の主な海溝(括弧内は最深部。単位はメートル)
マリアナ海溝(10920)
トンガ海溝(10800)
フィリピン海溝(10057)
ケルマデック海溝(10047)
伊豆小笠原海溝(9780)
千島カムチャツカ海溝(9550)
北ニューヘブリディーズ海溝(9175)
ヤップ海溝(8946)
ニューブリテン海溝(8940)
プエルトリコ海溝(8605)
南サンドイッチ海溝(8325)
サンクリストバル海溝(8322)
チリ海溝(8170)
日本海溝(8058)
パラオ海溝(8054)
アリューシャン海溝(7679)
南ニューヘブリディーズ海溝(7570)
南西諸島海溝(7460)
ジャワ海溝(7125)
中米海溝(6662)
ペルー海溝(6262)
東メラネシア海溝(6150)

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精選版 日本国語大辞典 「海溝」の意味・読み・例文・類語

かい‐こう【海溝】

  1. 〘 名詞 〙 大洋底にある細長い溝状の凹所。ふつう六〇〇〇メートル以上の深さで、側面は急傾斜をなす。大陸や大陸縁辺部の列島に平行して発達する場合が多い。マリアナ海溝、トンガ海溝、千島海溝など。
    1. [初出の実例]「たとへばミンダナオ海溝の海底噴火のやうに、暗黒な海淵の底でごうごうと湧き立ち」(出典:魔都(1937‐38)〈久生十蘭〉二二)

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改訂新版 世界大百科事典 「海溝」の意味・わかりやすい解説

海溝 (かいこう)
(deep sea)trench

細長い溝状の海底地形で,最深部の水深が6000mを超えるものをいう。かつてはこのような地形のすべてを海溝と呼んだが,近年はこのうち海底プレートが屈曲して陸の下へ斜めに沈み込んでいるために生じた地形だけを海溝と呼ぶ。

 ほとんどの海溝は太平洋の周囲にある(図1)。地形の断面はやや非対称のV字形で,上縁の幅は100km以内である(図2)。大洋底から最深部までの深さは3~4kmあり,一般に年齢の古い海底に接する海溝ほど最深部も深い傾向がある。海溝底は混濁流堆積物に満たされて平たんであることも多く,その場合,最深部の水深は見かけ上浅くなっている。

 海側斜面のこう配は平均4度以下であるが,途中に海溝軸にほぼ平行に,幅約2km,深さ数百m,長さ100kmの溝がいくつか見られる。このくぼみは海底の屈曲がもたらす張力によって生じた断層地形だと思われる。海溝の海側を上りつめたところは,さらに外側の海底よりも500~1000m浅く海溝周縁隆起帯(マージナル・スウェルmarginal swell)と呼ばれているが,これも海底の屈曲に伴うふくれ上がりだとされている。この地形は幅200~500kmにわたる,ごくゆるい傾斜のものである。海溝陸側斜面は海側に比べて傾斜も急で,平均6度を超え,起伏に富んでいる。途中に深海テラスおよびベンチと呼ばれる棚状の地形が見られることも多く,二つのテラス間が堆積物で埋まって深海平たん面と呼ばれる平らな地形をつくっている所もある。陸側斜面には沈み込む海底側からはがれた堆積物が下から押しつけられている所(南海トラフなど)と,海側の沈み込みによって陸側の先端が削りとられて沈降している所(マリアナ海溝など)がある。

 海溝軸に沿ってかなり活発な地震活動があり,陸の下へ斜めに傾く深発地震面が明瞭に描ける所も多い。地殻熱流量は海溝軸またはそのやや陸側で海底平均値より低い値を示す。重力のフリーエア異常は海溝に沿って負で,その絶対値は最深部か,少し陸側で最大である。しかし,海溝の地下でも地殻の厚さは通常の海底とほとんど違いはないことが知られているので,海溝地形はアイソスタシー(静的な地殻均衡)によってではなく,海底の沈み込みという動的な現象によって形成されたものであることがわかる。海溝の陸側100~400km以上離れて海溝とほぼ平行に活火山の列が存在するが,アレウトアリューシャン)列島,日本列島,マリアナ諸島トンガ諸島のように背後にさらに縁海をもつ島弧をつくる所と,中南米西岸のように大陸縁に火山が並ぶ場合との2通りがある。なお,細長い深い溝状の海底地形でも,明らかに沈み込み以外の原因(例えばトランスフォーム断層)だけでできたものは海溝とは呼ばない(例えば大西洋中部のロマンシュRomanche断裂帯(最深部の水深7800m)はかつては海溝と呼ばれた)。一方,明らかに沈み込みによって生じた地形でも最深部の水深が6000m以浅の時は海溝とよばず,トラフtroughとして一括する習慣である(例えば南海トラフ,駿河トラフ)。

 測鉛による測深を行っていた時代には,たまたま見つけた海溝内の深部に,海淵(かいえん)deepと名づけ,チャレンジャー海淵などの固有名詞を用いたこともあった。しかし,音響測深の普及とともに,海溝は細長い溝であることがはっきりしたので,一点一点の深さ比べは,ほとんど学問的な意味を失い,海淵という語もほとんど使われなくなった。
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百科事典マイペディア 「海溝」の意味・わかりやすい解説

海溝【かいこう】

島弧または陸弧と大洋底の間の細長い溝状の海底地形で,最深部の水深が6000mを越えるもの。海底プレートが陸の下へ沈み込むために生じた地形と考えられている。したがって,沈み込み以外の原因でできた水深6000m以上の溝状の地形(たとえばトランスフォーム断層でできた断裂帯),沈み込みでできても水深が6000mより浅い地形(これを舟状海盆またはトラフという)は海溝とは呼ばない。海溝の多くは太平洋の周囲に分布。断面は非対称のV字形,上縁の幅は100km以内。海溝底は乱泥流の堆積物で満たされて平坦である。海側斜面は平均4°以下の傾斜で,上りつめた所に500〜1000mのふくらみがあり,マージナルスウェルまたは海溝周縁隆起帯という。陸側斜面は平均6°を越え,起伏に富んでいる。斜面の途中に深海テラスまたはベンチという棚状地形があることが多く,二つのベンチ間が堆積物で埋まって深海平たん面を形成している所が多い。→プレートテクトニクス
→関連項目海淵海底地形海洋太平洋島弧トラフ付加体

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「海溝」の意味・わかりやすい解説

海溝
かいこう
oceanic trench

長くて狭く,かつ大洋底よりも一段と深い海底の凹所。長さは数百kmから数千kmに及ぶ。大陸側は急斜面であるが,大洋側は緩斜面。ほとんどの海溝は 7000mより深い最深部をもつ。さらに幅が広く大陸側斜面の傾斜のゆるいものはトラフと呼ぶが,海溝との境界は漸移的である。海溝の分布は弧状列島の大洋側に沿うことが多く,近年は弧状列島に沿うものだけを海溝と呼ぶことが多い。したがって,海溝のほとんどは太平洋の周縁部に存在しその数は 20余,大西洋ではケーマン海溝プエルトリコ海溝サウスサンドウィッチ海溝インド洋ではジャワ海溝などがある。海溝底は堆積物で平坦なことが多い。地質構造的には,海嶺,活火山帯,地震帯,重力異常帯に平行しており,その成因が構造性であることを示す。海溝から大陸へ向かって 30~60°の傾斜で深発地震面が広がる。海溝に沿って負の重力異常が現れる。プレートテクトニクス説では,海洋底のもぐり込むところとされる。(→深海底

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「海溝」の意味・わかりやすい解説

海溝
かいこう

大陸斜面と大洋底との境界付近にある細長い凹地。深さ6000メートル以上、長さ1000~4000キロメートル、幅100キロメートル程度のものが多い。海溝の両斜面は比較的急で、陸側の傾斜角は大洋側より大きい。地球上には27の海溝があるが、大部分太平洋の周縁部に分布している。海溝の陸側には、日本列島のような弧状列島や、南アメリカ大陸のアンデスのような大山脈が並行しており、地形が険しく、地震や火山の活動が盛んな地域となっている。海洋底拡大説によれば、海溝は海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む所で、それに伴ってさまざまな変動活動を生じると考えられている。

[勝又 護]

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知恵蔵 「海溝」の解説

海溝

海洋プレートが屈曲して斜めに沈み込む所に生じる細長い溝状の海底地形のうち、最深部の水深が6000mを超えるもの。断面はやや非対称のV字形で、底が陸に由来する堆積物に厚く覆われ、断面がU字形になる場合もある。世界最深部はマリアナ海溝南西端の水深1万911m。日本海溝(水深6366m)は東北日本の東沖約300kmにあり、最深部は鹿嶋市東方で水深8020m。平均勾配が4度以下の海側斜面の途中に、多くは海溝にほぼ平行に走る溝と高まりが多数存在するが、これは海底プレートの折れ曲がりで生じた張力による断層群によって作られた地形。陸側斜面に見られる平坦面は、構造的な高まりの間を堆積物が埋めたもの。

(小林和男 東京大学名誉教授 / 2007年)

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岩石学辞典 「海溝」の解説

海溝

大陸斜面と大洋底との境界付近にある細長い凹地で,深さ6 000m以上,長さ1 000~4 000km,幅100km程度のものが多い.海溝の両斜面は比較的急で,陸側の傾斜角は大洋側より大きい.地球上には27の海溝があり,大部分は太平洋の周辺部に分布している.

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世界大百科事典(旧版)内の海溝の言及

【海底地形】より

… 海穴hole海底の小さな凹み。 海溝trench長く狭くとくに非常に深くかつ非対称な海底の凹みで,比較的急峻な斜面を有する。 海谷valleysubmarine valley―比較的浅く幅広い凹みで,その底はふつう連続的な傾斜を示す。…

【塹壕】より

…陸上戦闘で敵の火砲や機関銃の射撃から兵員,兵器などを防護するため,大地に掘削した穴,または通路をいう。攻撃,防御いずれの場合も用いられるが,兵力が劣勢の場合,または時間をかせぐ防御の場合には必須の手段である。戦線が流動的でなく固着した場合は,敵味方双方で構築するので,第1次大戦の西部戦線のような塹壕戦となる。【近藤 新治】…

【発掘】より

…この種の広大な面積の発掘調査に対し,特定の問題解決のための情報入手を目的として,遺跡のなかの最適の部分で最小限の面積を対象に実施する発掘調査を部分発掘と呼ぶことがある。部分発掘では,対象地点に溝(トレンチtrench)状に掘削部を設定して発掘を進める,トレンチ発掘またはトレンチ調査と呼ぶ方法をとることが多い。 通常の遺跡では,発掘調査は表土の排土から始まり,遺構・遺物の検出へと進んでいく。…

【海】より

…陸地と海洋の割合は前者で49.0%:51.0%,後者で9.4%:90.6%となり,前者の陸半球には全陸地の約84%が含まれる。
[海の深さ]
 世界の海洋の深度は,平均約4000mであるが,世界で最も深い記録は,太平洋のマリアナ海溝にあり,1万0920mにも達する。一般に海面から約200mの深さまでは陸地の延長とみられ,大陸棚と呼ばれる(図2)。…

【海底地形】より

…海洋プレートは中央海嶺とは反対側の縁辺で大陸プレートとぶつかりアセノスフェアの中へ沈み込んでいく。 ぶつかるプレート境界(サブダクション帯,沈み込み帯と呼ぶ)では深くて両側に急斜面をもつ細長い凹みである海溝が生じる。沈み込んだプレートはアセノスフェア深部で溶融し,ふたたびアセノスフェアになる。…

※「海溝」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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