改訂新版 世界大百科事典 「エトベシュ」の意味・わかりやすい解説
エトベシュ
Eötvös Rolánd
生没年:1848-1919
ハンガリーの物理学者。17世紀以来の男爵家に生まれ,初めブダペスト大学で法学を学んだが,数学,物理学に興味をもち,ハイデルベルクとケーニヒスベルクの大学でG.R.キルヒホフ,H.L.F.vonヘルムホルツ,F.E.ノイマンたちに学んだ。帰国してブダペスト大学に勤め,1872年に理論物理学の教授,78年に実験物理学教授のポストを得た。ノイマンのもとでくふうした表面張力を測定する光学的な方法で,液体の表面張力と温度の関係を表す重要な法則を見いだした(1876-86)。この法則は,物質1mol当りの表面エネルギーが臨界温度からの温度差に比例し,正常液体では比例定数が物質によらないことを示し,エトベシュの法則として有名である。その後,重力についての研究に移り,精密な重力偏差を測定するねじりばかりを考案して,慣性質量と重力質量とが比例することを精密に測定する実験を行い(1896),アインシュタインの一般相対性理論に重要な実験的基礎を提供した。彼の実験は精度の高いことに特徴があるが,それはキルヒホフの教えに負うところが多いという。彼と共同研究者はハンガリーの各地の重力加速度を測定,また地球上の重力場の測定から地下構造を推定できることを示唆した。
彼は丹念に講義の準備をし,講義実験にとくに力を入れたという。また,政府の依頼でフランスの高等教育の視察に赴き,教育関係の大臣を短期間務め,高等学校教員の育成のための学校を創設するなど,教育行政にも力を尽くした。ハンガリーの科学アカデミーの会長を89年から1905年まで務め,1885年には友人たちとハンガリー数学会を創立し,後に物理学者を加えて数学・物理学会(1891)として,その初代会長を死ぬまで務めた。こうして彼は多方面にわたってハンガリーの科学発展の基礎を築いた。登山家としても多くの記録を残している。
執筆者:川合 葉子
エトベシュ
Eötvös József
生没年:1813-71
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報