日本大百科全書(ニッポニカ) 「エブラ」の意味・わかりやすい解説
エブラ
えぶら
Ebla
古代にシリア北部にあった都市国家。その存在は、メソポタミアのシュメールやアッカド時代の粘土板文書によってよく知られていた。メソポタミアはユーフラテス川に沿って上流のマリ、エマルを経て、地中海沿岸地帯やアナトリア地方との交易を行い、メソポタミアには存在しない鉱物、織物、木材などの製品や材料を輸入していたが、交易の中心地として、エブラ王国が果たした役割はきわめて大きいものがあった。年代は紀元前2400年に比定されているが、エブラ王国はシリア北部の交易センターの中心として活躍している。1964年にローマ大学のパウロ・マッティエによって、アレッポの南約65キロメートルにあるテル・マルディフの発掘調査が開始され、ここが都市国家エブラであることがわかった。城壁を巡らした宮殿、風俗図浮彫りの石製容器、ライオンと兵士を浮彫りにした奉献用の石製容器などが発見された。もっとも重要なことは、宮殿の付属文書館から75年に1万5000点以上の粘土板文書が発見され、エブラ王国の置かれた交易センターとしての役割の重要性が確認されたことである。
[糸賀昌昭]
『マッオッゾーニ著、糸賀昌昭訳「シリアの古代都市文化」(『図説世界の考古学2 古代オリエントの世界』所収・1984・福武書店)』