日本大百科全書(ニッポニカ) 「エムプレクト鉱」の意味・わかりやすい解説
エムプレクト鉱
えむぷれくとこう
emplectite
銅(Cu)と蒼鉛(そうえん)(ビスマス。Bi)の硫塩鉱物の一つ。同構造の輝安銅鉱とともに輝安銅鉱系を構成する。自形はb軸方向に伸び、c軸方向にやや扁平(へんぺい)な斜方立体。b軸に平行に条線が発達する。
比較的高温の熱水鉱脈鉱床あるいは気成鉱脈鉱床中に産し、複雑な共存関係をもつことが多い。日本では兵庫県養父(やぶ)市明延(あけのべ)鉱山(閉山)産の自然蒼鉛に伴われるライタカリ鉱laitakarite(化学式Bi4Se2S)を主とする硫化物の集合体中に黄銅鉱とともに産する。共存鉱物は、安四面銅鉱‐砒(ひ)四面銅鉱、硫砒銅鉱、あるいはルソン銅鉱、モーソン鉱、石英、方解石、重晶石など、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、スズ(Sn)などの鉱物を伴う場合と、黄銅鉱、閃(せん)亜鉛鉱、黄鉄鉱、輝水鉛鉱、石英、蛍石(ほたるいし)などのように比較的普通に産する硫化物に伴われる場合とがある。
同定は非常に低い硬度、扁平な方向に平行な劈開(へきかい)、大きい比重などによる。強い光線の下では錫白(しゃくはく)色ともいうべき明るい色を呈するが、弱い光線の下では灰色から鉛色になる。しかし類似組成のCu2S-Bi2S3系硫塩には多数の独立種があり、これらとの識別は肉眼ではまずできない。英名のemplectiteは「複雑に絡み合った」を意味するギリシア語(emplektos)に由来している。これはこの鉱物が石英と微細粒の集合をなして産する場合があることからきている。
[加藤 昭 2016年1月19日]