かや葺き(読み)かやぶき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「かや葺き」の意味・わかりやすい解説

かや葺き
かやぶき

カヤ(茅または萱)で屋根を葺くこと。カヤはチガヤスゲススキアシなどの異称とされ、いずれも屋根葺き材料として使用でき、逆にこれら以外で葺き材料に使用できる植物材料(板、杮(こけら)、檜皮(ひわだ)などの加工物は除く)は日本では稲藁(いねわら)しかない。したがって、かや葺きといえば、藁葺きを除くすべての草葺きと考えてよい。『顕宗(けんそう)紀即位前紀』にみえるいわゆる「室寿(むろほぎ)の歌」に「草葉」と記し「かや」と訓じ、『古事記』で「訓葺草、云加夜」と記しているのはそのことを証明するものであろう。材料入手が容易で、古来農村や山間部の家屋に多用されており、伊勢(いせ)神宮正殿は式年遷宮を重ねてもこれで屋根を葺いていることはよく知られている。また瓦(かわら)の普及しなかった時代、都市部でもカヤは有用な葺き材料であった。1660年(万治3)、江戸幕府は相次ぐ火災にたまりかねて江戸市中でのかや葺きを禁じ、在来のものには、その上に土を塗ることを布令したが、このことは、当時なおこの種の屋根が市中に多く存在していたことをうかがわせる。現在でもその雅趣を捨てがたいとして、茶室数寄屋(すきや)に用いることがあるが、防火上の見地から建築基準法により都市部における一般建築への適用は禁止されている。

 かや葺き屋根の葺き方は、小屋組みが、和小屋、扠首(さす)組みいずれの場合でも、垂木(棰)(たるき)の上にこれと直行する小舞(こまい)(通常は竹)を配し縄で絡め、その上へ穂先を上にしたカヤの束を1段ごとに竹で押さえ、下地小舞に緊縛しながら、下から順に葺き上げていく。棟は、カヤ束を鞍(くら)がけにしてその上を重い材料で押さえる場合(古い神社にみられる鰹木(かつおぎ)はその名残(なごり)である)と、瓦屋根と同様な箱棟を置く場合とがある。カヤ束は雨水を含みやすく透水性も大きいので、屋根勾配(こうばい)は矩(かね)勾配(45度)以上とし、厚さも1メートルを超えることが珍しくない。しかしそのために、熱遮断や保温の効果は瓦葺きなどに比べて格段に優れ、もとより凍害などのおそれもない。かや葺きの寿命はその土地の気象条件によっても異なるが、藁葺き(20年)や檜皮葺き(15年)に比べて一般に長く、約30年とされている。

 かや葺きは、今後農家などにおいてもしだいに少なくなり、文化財的建造物で残されることになろう。しかし、ただそれだけの需要を賄うための供給さえ、今後の国土の開発の進行によって不足するものと思われ、1979年(昭和54)以来、国が補助金を出して一定地域を限りカヤの採取地を確保している。

[山田幸一]

 2020年(令和2)、「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」17件中の1件(茅葺)として、「ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録された。

[編集部 2022年1月21日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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