カリキュラム概念(読み)カリキュラムがいねん

大学事典 「カリキュラム概念」の解説

カリキュラム概念
カリキュラムがいねん

カリキュラム語源ラテン語のcurrere(走る)に由来し,「走るコース」を意味する。狭義には教育課程とほぼ同義に使われるが,さまざまな角度から分析可能であるから,広範な意味を擁していると解される。狭義の教育課程に限定して考えても,社会,政府知識,大学,教員学生などは,それを規定する要因である以上,下記のごとく,それらが変化すれば内容が変化するのは回避できない。

 第1に,社会変化を農業社会から工業社会や知識社会への変化と巨視的にとらえると,農業社会では中世大学が,工業社会では近代大学が,知識社会では現代大学からさらに今後登場してくる未来大学が社会の中枢を占めており,この変化は大学に影響を及ぼしカリキュラムの変化を喚起する。たとえば天動説から地動説への転換ダーウィンの進化論の登場,DNA解読などの科学革命媒介にしたパラダイム転換は,おのずからカリキュラム改革を招来した。社会変化は専門分野の増加とカリキュラムの内容の増殖をもたらした。基本的に神学法学,医学,教養諸学(学芸)の4学部が存在した中世大学に対して,現代大学は15学部前後を数える大学は少なくないし,学部に所属する学科や講座は数百を数えるほど増殖しているのは,社会変化と同時に政府,知識,大学,教員,学生などの諸側面が変化して,カリキュラムに化学変化的な増殖と新陳代謝を招いていることにほかならない。

 第2に,世界の国家政府は,大学の発展が国家の発展を左右する度合いが高まった近代社会以後においては,大学政策を通して社会の要請するイノベーションを推進するためにカリキュラム改革を大学に求めている。日本では大学審議会の1991年(平成3)答申以後,大学教育改革が唱道され,近年では2008年の「学士課程答申」,2012年の「質的転換答申」など中央教育審議会の一連の答申を基に学生の創造力,想像力,問題解決力,汎用的能力などを涵養するために学修力の向上を導くカリキュラムが模索されている。

 第3に,大学の学事が知識に依拠する限り,知識の比重は大きい。19世紀以来の科学の大学への制度化によって知識の専門分化が進行し,それに伴い専門分野の増殖が生じた結果,アメリカ合衆国で大学院が発明され研究が重視されることになったが,大学院に限らず大学教育では最先端の研究がカリキュラムを通して教育へ転換される必要性が強まった。学問の日進月歩に背を向ければ,大学は進歩からたちまち取り残されてしまうのは必至である。教員は自己の専門分野において研究に携わると同時に,授業あるいは教授―学修過程を通して,最先端の発明発見を基礎に準備した教科書や資料などを媒介にして学生の学修を醸成する役割を果たす。その意味で研究と教育と学修との連携(R-T-Sネクサス)が重要な課題となった。それだけに,教員は教育現場でのカリキュラムの質的な維持に日増しに大きな責任を担うようになっている。

 第4に,学生はカリキュラム(教育課程)を基軸に教員の指導を担保しながら,自らの学修によって学力を形成する。学生の能動的学修に大きな期待がかけられる知識社会におけるカリキュラム編成では,学生の成長発達や学修ニーズなどの学修者に即した要求を無視できない。学生の学修に直接的な影響をもたらすカリキュラムは,社会,政府,知識,大学,教員,学生などさまざまな要因を反映して成立するのであるから,カリキュラムは単なる教育課程を超えた,これらさまざまな要因からの期待や圧力を刻印した力学の所産であるとみなされる。

 以上,実際には社会といっても国際社会,国家社会,地域社会など複雑に分化しているから,これらのどの社会からの期待や圧力が主たる比重を占めるかによって,要求は一元的ではない。具体的には政府,知識,大学,教員,学生などの複雑な要求が交錯する中でカリキュラムは規定され,形成され,しかも刻々と変化を遂げている以上,カリキュラムは決して静的ではなく動的な生きものであると解されよう。
著者: 有本章

参考文献: トーマス・クーン著,中山茂訳『科学革命の構造』みすず書房,1971.

参考文献: 中山茂編著『パラダイム再考』ミネルヴァ書房,1984.

参考文献: Jung C. Shin, Akira Arimoto, William C. Cummings & Ulrich Teichler(eds.), Teaching and Research in Contemporary Higher Education: Systems, Activities and Rewards, Dordrecht: Springer, 2014.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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