日本大百科全書(ニッポニカ) 「カーロール鉱」の意味・わかりやすい解説
カーロール鉱
かーろーるこう
carrollite
硫化鉱物の一つ。ニッケル(Ni)置換体のフレッチャー鉱fletcherite(化学式Cu(Ni,Co)2S4)とともに、いわゆる硫スピネル系を構成する。酸化物のスピネル(尖晶石(せんしょうせき))の酸素を硫黄で置換したもので、まったく同構造である。このなかでは銅(Cu)は二価であるが、硫化鉱物では、Cu2+(二価銅)を主成分として含む種はCu1+(一価銅)を主成分とするものより数が少ない。自形も尖晶石同様、正八面体あるいはこれを基調とした立体であるが、立方体をなすこともある。
深熱水性鉱脈型銅鉱床あるいは変成岩中に発達する含銅硫化鉄鉱鉱床中に産する。カーボナタイト(炭酸塩鉱物からなる火成岩)に伴われることもある。日本では愛媛県伊予三島(いよみしま)市(現、四国中央市)佐々連(さざれ)鉱山(閉山)の含銅硫化鉄鉱鉱床中、比較的高品位の銅鉱石の一部から産した。同様の産状のものは高知県土佐郡大川村白滝鉱山(閉山)からも知られている。共存鉱物は黄銅鉱、デュルレ鉱、斑(はん)銅鉱、磁硫鉄鉱、リンネ鉱、ジーゲン鉱siegenite((Ni,Co)3S4)、針ニッケル鉱、ゲルスドルフ鉱など。
同定は外形が出ていればそうむずかしくはないが、硫スピネル系のなかでジーゲン鉱やリンネ鉱、フレッチャー鉱とは区別できない。命名は原産地パタプスコPatapsco鉱山およびミネラル・ヒルMineral Hill鉱山のあるアメリカ、メリーランド州カーロールCarroll郡に由来する。カーロール郡はアパラチア山脈中にあって急坂の多い土地で、車止めをしないと荷車(car)が転がり出す(roll)ことから、この地名が生まれたという。
[加藤 昭 2016年2月17日]
カーロール鉱(データノート)
かーろーるこうでーたのーと
カーロール鉱
英名 carrollite
化学式 CuCo2S4。理想式に一致するものはないが,(Cu,Co)Co2S4で括弧内のCu:Co~7:3程度のものが知られている
少量成分 Ni, Fe
結晶系 等軸
硬度 4.5~5.5。ビッカース硬度から計算すると5.5が得られる
比重 4.83
色 鋼灰。錆びると赤味を帯び,その後銅鉱物特有の虹色が出てくる。ただこの錆びの色は共存鉱物にもよるらしい
光沢 金属
条痕 灰黒
劈開 無
(「劈開」の項目を参照)