クラッスス(読み)くらっすす(英語表記)Marcus Licinius Crassus

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クラッスス」の意味・わかりやすい解説

クラッスス
くらっすす
Marcus Licinius Crassus
(前115ころ―前53)

古代ローマ、共和政末期の政治家、富豪。初めスラに味方し、スラによる反対派の没収財産を買い占め、火災にあったローマ市の家などを安く買い取り、また戦争を通して貪欲(どんよく)に富を追求し、ローマ一番の金持ちとなり、富者Divesといわれた。ローマに大きな恐怖を与えたスパルタクス蜂起(ほうき)を将軍として鎮定し(前71)、翌年ポンペイウスとともに執政官に選ばれた。しかしポンペイウスには対抗意識をもち、ポンペイウス東征中のカティリナ陰謀事件では、カエサルとともにひそかにカティリナを援助した。カエサルがイスパニア総督として赴任する際、多額の負債に苦しんでいたのを保証人となって助け、紀元前60年には、カエサルの仲介で、反目していたポンペイウスとも結び、元老院勢力に共同で対抗し、第一次三頭政治を実現し、ローマの領土をおのおのの勢力範囲に分けた。この結合は前56年のルカ会談で更新されたが、クラッススはカエサル、ポンペイウスに匹敵する武名をも得ようとし、自己の勢力範囲であるシリアを拠点として、パルティア遠征を試み、ユーフラテス川を越えたが、ここでパルティア軍の反撃にあって前53年6月9日戦死した。

[土井正興]

『河野与一訳『プルターク英雄伝』(岩波文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クラッスス」の意味・わかりやすい解説

クラッスス
Crassus, Marcus Licinius

[生]前115?
[没]前53
古代ローマ,共和制末期の有力政治家,富豪。エトルリア系プレプス (平民) の有力氏族の出身。第1次三頭政治の1人。マリウスのローマ支配でスペインに逃れる。スラとともにイタリアヘ進撃,略奪により巨富を得た。前 73年法務官 (プラエトル) ,スパルタクスの乱を鎮圧したが,手柄はポンペイウス (大ポンペイウス) に奪われた。高利貸,商業によってさらに蓄財。ユリウス・カエサルに援助を与えた。前 60年からカエサル,ポンペイウスとともに三頭政治に加わる。前 70年,前 55年執政官 (コンスル) ,のちにシリア総督。軍人としての栄誉を求めて東方に遠征,パルティアに侵入したが,カラエで大敗,殺された。

クラッスス
Crassus Dives Mucianus, Publius Licinius

[生]前180?
[没]前130
古代ローマの政治家。エトルリア系プレプス (平民) の有力氏族の出身で,G.グラックス (→グラックス兄弟 ) の義父。 T.グラックスの改革を支持し,スキピオ・アエミリアヌス (小スキピオ) の政敵となった。 T.グラックスが殺害されたあと,その政策を支持し,改革委員会に参画。大神官,前 131年の執政官 (コンスル) 歴任後,ペルガモンとの戦いで戦死。

クラッスス
Crassus, Lucius Licinius

[生]前140
[没]前91
古代ローマの法律家,政治家。エトルリア系プレプス (平民) の有力氏族の出身。法律を P.M.スカエウォラに学び,雄弁家として知られ,M.キケロに称賛されている。 G.P.カルポの追放に活躍。前 95年執政官 (コンスル) 。前 92年戸口総監 (ケンソル) 。 M.ドルススらの若い貴族に弁論を教え,政治にも影響力をもった。

クラッスス
Crassus Frugi Licinius,Gaius Calpurnius

古代ローマの1世紀頃の政治家。エトルリア系プレプス (平民) の有力氏族出身。 64年執政官 (コンスル) 。ネルウァ帝のとき陰謀に加わりタレンツムに追放された。トラヤヌス帝への陰謀にも加わったすえ,ハドリアヌス帝のとき処刑された。

クラッスス
Crassus,Marcus Licinius

古代ローマの前1世紀頃の政治家。エトルリア系プレプス (平民) の有力氏族出身。 M.L.クラッススの孫。ポンペイウス (大ポンペイウス) ,次いで M.アントニウスを支持したが,のちにオクタウィアヌス (アウグスツス) にくだった。前 30年執政官 (コンスル) 。マケドニアに遠征,前 27年には凱旋式を行なった。

クラッスス
Crassus,Publius Licinius

[生]?
[没]前87
古代ローマの政治家。エトルリア系プレプス (平民) の有力氏族の出身。前 97年執政官 (コンスル) ,前 89年戸口総監 (ケンソル) 。 G.マリウス,L.スラを破ったのち自殺。

クラッスス
Crassus,Publius Licinius

[生]前85?
[没]前53
古代ローマの軍人。 M.L.クラッススの子。カエサルのガリア戦争に従う。ガリア騎兵を率いて父とともにパルティアに遠征,敗死。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報