改訂新版 世界大百科事典 「グギ」の意味・わかりやすい解説
グギ
Ngugi Wa Thiong'o
生没年:1938-
ケニアの作家。キクユ族農民の子。小学生時代に反英民族教育を受けた後,マケレレ大学卒業。イギリスのリーズ大学留学後,ナイロビ大学講師。1977年,農村で民族語劇を指導したが,その内容が反体制的とみなされたためか,無裁判で同年末から約1年間政治拘禁に処された。その後は創作と演劇活動に専念。過去と現在をからめ,人物の心理をえぐり,状況の力学をとらえる才に恵まれ,同時に清冽(せいれつ)なロマンチシズムを特徴とする。《泣くな吾が子よ》(1964)ではマウマウの反乱に至る動乱期に幼い魂をもてあそばれる少年の成長が,事実上の処女作《川を隔てて》(1965)ではキリスト教の浸透による伝統社会の癒しがたい亀裂が,《一粒の麦》(1967)では民衆の脳裏にうごめくマウマウの記憶と背信の傷痕が描かれる。最後の英語小説《血の花弁》(1977)は独立ケニアの搾取と抑圧の構造にメスを入れ,新秩序の到来に民衆の夢を託す代表作。初のキクユ語小説《十字架の上の悪魔》(1980)は獄中で書いたもの。大学時代から多くの戯曲を書いたが,マウマウ戦士の不滅の闘魂を讃える《デダン・キマジの裁判》(合作。1976),現代の搾取構造をえぐり,農民・労働者の団結の力強さをうたう初のキクユ語劇《したい時に結婚するわ》(合作。1977年初演,1980年刊)がすぐれている。ほかに《政治の中の作家》(1981)などの評論,自伝がある。作家であると同時に,思想と文芸論を語る数少ない存在で,創作活動の民衆的基盤を明らかにしている。
執筆者:宮本 正興
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報