コワレフスカヤ(読み)こわれふすかや(その他表記)Софья Васильевна Ковалевская/Sof'ya Vasil'evna Kovalevskaya

デジタル大辞泉 「コワレフスカヤ」の意味・読み・例文・類語

コワレフスカヤ(Sof'ya Vasil'evna Kovalevskaya)

[1850~1891]ロシア数学者。ストックホルム大教授。ロシア初の女性大学教授。偏微分方程式に関する論文と、ラプラス土星の環の形状に関する数学理論により、ゲッティンゲン大学の博士号取得。文学的才能にも恵まれ、「自伝追想」などを残す。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コワレフスカヤ」の意味・わかりやすい解説

コワレフスカヤ
こわれふすかや
Софья Васильевна Ковалевская/Sof'ya Vasil'evna Kovalevskaya
(1850―1891)

ロシアの数学者。モスクワの生まれ。少女時代から数学に興味をもち、外国での勉強を望んだが、未婚のままで国外へ出ることを父に拒まれた。そこで18歳のとき、海外留学予定者コワレフスキーVladimir Onufrievich Kovalevski(1842―1883)と名義だけの結婚をして、ドイツハイデルベルクへ行き、以後、二人は別行動をとった。数学者ケーニクスベルゲルLeo Königsberger(1837―1921)に師事したのち、1870年からワイアシュトラースにアーベル関数に関する個人指導を受けた。コワレフスカヤの進歩は著しく、充実した研究生活を送った。この間の業績のうちでもっとも有名なのは偏微分方程式の研究で、これに対して1874年秋ゲッティンゲン大学から学位を授与された。

 1876年、父の死去を機に変則的な結婚から正式の結婚へ転じたが、ほどなく別居生活を始め、1883年3月、夫の自殺契機に、ストックホルム大学長の招きを受けてこの大学の講師となった。当時は女性の聴講すら許されない状況であり、彼女や学長への非難は激しかったが、1888年パリ科学アカデミーが彼女にボルダン賞を授与したことにより、世間の評判もよくなった。まもなく教授になり、1891年2月に教授として初講義をしたが、数日後に、かぜがもとで他界した。

[小堀 憲]

『野上弥生子訳『ソーニャ・コヴァレフスカヤ(自伝と追想)』(岩波文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「コワレフスカヤ」の意味・わかりやすい解説

コワレフスカヤ
Sof'ya Vasil'evna Kovalevskaya
生没年:1850-91

ロシアの数学者。20世紀以前におけるもっとも偉大な女性数学者といわれている。早くから数学に才能を発揮,18歳のとき契約結婚の形でロシアを出国してドイツに渡った。1869年ベルリンに移り,当時の解析学の世界的指導者であったK.ワイヤーシュトラスに師事する幸運に恵まれた。74年,偏微分方程式,アーベル積分,土星の環についての三つの研究を完成し,このうち第1のものが国際的にも高い評価を受け,75年ゲッティンゲン大学から異例の手続によって学位が授けられた。83年ストックホルム大学に招かれ,それ以降ここで数学の研究活動を行った。とくに89年に発表された《剛体の一つの定点のまわりの回転の問題について》と題する研究論文に対して,フランス学士院からボルダン賞が授けられた。彼女の学位論文は,1875年クレレの雑誌の第80巻に発表されたが,これはコーシー=コワレフスカヤの定理と呼ばれ,今日に至るも偏微分方程式論における不朽の基本定理として重要な地位を保っている。文学的才能もあり,とくに小説の形で書いたロシアにおける幼年時代の回想《ラエフスキー家の姉妹》(1890)が世界的に広く読まれている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コワレフスカヤ」の意味・わかりやすい解説

コワレフスカヤ
Kovalevskaya, Sof'ya Vasil'evna

[生]1850.1.15. モスクワ
[没]1891.2.10. ストックホルム
ロシアの数学者,作家。父は軍人。 1868年に古生物学者 V.コワレフスキーと結婚し,ともにドイツで勉学を続けた。当時女性は大学で公に講義を聞けなかったので,ベルリンで私的に K.ワイエルシュトラスの指導を受けた (1871~74) 。 74年,彼女の最も注目すべき研究の一つである偏微分方程式に関する論文によって,ゲッティンゲン大学において学位を得た。 88年,固定された1点を回る剛体の回転運動に関する研究論文によってフランスの科学アカデミーからボロダン賞を受賞。この研究は彼女の最もすぐれた業績といえる。 89年ストックホルム大学教授に就任。 91年には,ペテルブルグの科学アカデミー会員に選出されている。また作家としても有名で,代表作に,ロシアの生活を描写した『ラエフスキー家の姉妹』 Sëstry Raevskikh (90) ,『女性ニヒリスト』 Nigilistka (84) ,戯曲『幸福のためのたたかい』 Bor'ba za schast'e (87) がある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「コワレフスカヤ」の意味・わかりやすい解説

コワレフスカヤ

ロシアの女性数学者。1868年古生物学者V.コワレフスキー〔1843-1883〕と結婚して共にドイツに留学,ベルリン大学でワイヤーシュトラスに学ぶ。偏微分方程式論,剛体の回転運動を研究。夫の自殺後1884年よりストックホルム大学教授。自伝小説《ラエフスキー家の姉妹》ほか文学作品もある。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のコワレフスカヤの言及

【数学】より

…微分方程式は17世紀以来応用数学の主役を占め,オイラーらはある種の偏微分方程式をも解いていたが,19世紀にはコーシーらにより偏微分方程式の場合も含めて解の存在などに関する一般論が扱われるようになった。後者についてのS.コワレフスカヤによる〈基本定理〉が発表されたのは1875年であった。
[現代の数学]
 20世紀の初頭には,数学の性格はほぼ明らかとなり,その進展は加速度的となっていた。…

※「コワレフスカヤ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android