改訂新版 世界大百科事典 「コンテンプトオブコート」の意味・わかりやすい解説
コンテンプト・オブ・コート
contempt of court
裁判所侮辱の意。英米のコンテンプト・オブ・コートは,法廷内または裁判所周辺で騒いで審理を妨害するとか,裁判所または裁判官を侮辱するような行為をしたことに対して制裁を加える場合と,裁判所が出したインジャンクション(差止命令)に従わない者に対し,従うまでその身柄を拘置しあるいは1日ごとに一定額の制裁金を科するなど,裁判所の命令の実現を図るための間接強制の手段としての場合の,二つに分けられる。前者を〈刑事的裁判所侮辱criminal contempt〉,後者を〈民事的裁判所侮辱civil contempt〉という。
英米の裁判官は,(管轄権に事物・訴額などで制限のある下位裁判所のうちの一部を除き)職権で裁判所侮辱の制裁を科する権限をもっていたが,近年,刑事的裁判所侮辱については,過去の違法行為に対する制裁であるという点で一般の犯罪と基本的には性質を異にするものではないという理由で,法律を制定して,検察官によって公訴が提起されたときに限ってこれを科しうるのを原則とする法域(国または州など)が増えてきた。制裁の程度も,伝統的には裁判官の裁量にゆだねられてきたが,刑事的裁判所侮辱については法律で限度を明定した法域が多くなっている。これに対し民事的裁判所侮辱は,制裁の程度が原則として裁判官の裁量にまかされているのみならず,裁判所の命令に従うまでいつまでも拘置し,あるいは制裁金を科し続けることができる。民事的裁判所侮辱は,裁判所の命じたところに従わせるためのものであり,従えばいつでも制裁を免れることができるのであるから,人権の保障に関する問題は生じないとされるのである。このように,民事的裁判所侮辱は,法の命ずるところを実現するための強力な手段の一つであり,英米法の特徴の一つとなっている。なお,日本については〈法廷秩序〉の項を参照されたい。
執筆者:田中 英夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報