改訂新版 世界大百科事典 「シオマネキ」の意味・わかりやすい解説
シオマネキ (潮招)
Uca arcuata
雄のいずれか片方のはさみ脚が異常に大きい甲殻綱スナガニ科のカニ。甲幅3cmに達し,甲は前方が広く,後方が強く狭まっている。暗青緑色で甲の中央に紫の網目模様がある。はさみは赤褐色。有明海沿岸から鹿児島,宮崎,種子島,朝鮮半島南部,中国北部に分布する。インド洋,南太平洋に分布していて同種とされていたものは,ごく近縁のヤエヤマシオマネキU.dussumieriかリュウキュウシオマネキU.coarctataの誤りである。シオマネキ類は世界で80種余りが記載されており,日本は分布の北限にあたる。日本産は8種であるが,はさみが白いハクセンシオマネキU.lactea(甲幅1.5cm),黄色いヒメシオマネキU.vocans(甲幅2cm),紅色のベニシオマネキU.chlorophthalma crassipes(甲幅1.5cm)が多く,かつて九州に多かったシオマネキはカニの塩辛の蟹漬(がんづけ)の最高の材料とされたため,ごく少なくなってしまった。いずれの種も内湾の砂泥地に群れをなしているが,巣穴の周囲の一定の広さをなわばりとして生活しているため,濃密な群れをなすことはなく,また,種ごとにある程度のすみ分けを行っている。雄は大きいはさみを種ごとに一定の型で振り上げて下ろす運動をする。これが和名の由来であるが,雌に対する求愛行動と考えられている。干潟での活動は太陽の昼夜リズムと月による潮汐リズムの両方により規制されており,日中の干潮時にもっともよく活動する。夜間に活動する個体は少なく,また雨天,曇天,低温時には穴に潜っているものが多い。産卵は6~8月。
執筆者:武田 正倫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報