ドイツの金融財政家。北ドイツ生まれ。母はデンマーク系アメリカ人。ドレスデン銀行重役、ナチオナル銀行頭取などを経て、1923年ドイツ国通貨委員となりインフレを収めた(レンテンマルクの奇跡)。同年ライヒスバンク総裁に就任し、マルクの安定、財政健全化に努め、ワイマール共和制の定着に貢献した。しかし交渉団長となったヤング賠償案をめぐる意見の対立から、1930年総裁を辞任した。以後、右翼勢力の糾合を図り、ナチスを援助してヒトラー内閣の成立、ワイマール共和制の崩壊に寄与した。ヒトラーのもとでふたたびライヒスバンク総裁(1933)、経済相(1934)を兼ね、再軍備と失業克服のナチス経済政策を遂行したが、ゲーリングと対立して引退、1944~1945年反ナチ態度のゆえに拘禁された。ニュルンベルク裁判では無罪とされ、釈放後、銀行経営や発展途上国の財政顧問などで活躍した。20世紀有数の経済テクノクラートであった。
[福応 健]
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ドイツの銀行家・政治家。1923年ドイツ政府通貨委員としてレンテンマルクを発行し,大インフレの収束に尽力した。24-30年ライヒスバンク(帝国銀行)総裁をつとめるが,賠償問題についてのヤング案に反対して辞職。以後,ナチスを援助してヒトラー内閣の成立に努力した。第三帝国下で33-39年ライヒスバンク総裁,34-37年は経済相を兼任。再軍備を推進したが,経済四ヵ年計画と金融政策をめぐってヒトラーと対立,失脚した。
執筆者:栗原 優
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1877~1970
ドイツの銀行家。1916年ナツィオナル銀行理事,18年ドイツ革命後民主党の創設に参加,23年国家通貨委員となりマルクの安定に貢献,同年ライヒスバンク総裁となる。30年ヤング案に反対して辞職。以後ナチスに接近,ヒトラー内閣の実現に努力し,33年ライヒスバンク総裁に復活,34年経済相をも兼ね,再軍備政策の金融面を担当した。のちナチスの再軍備第一主義と衝突し辞任した。
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… 第2期は戦争体制への移行期であって,ヒトラー総統就任から38年3月のオーストリア併合の直前までである。この時期の内政面での重要なできごととしては,35年3月の徴兵制の導入と空軍建設公表,同9月のナチ党ニュルンベルク大会における一連の人種主義立法の公布,36年9月の〈4ヵ年計画〉の発表とその責任者へのゲーリングの任命(10月),そして翌37年末から38年初頭にかけてのナチ党と保守派財界人H.G.シャハトや陸軍首脳部の間の再軍備問題をめぐる対立があげられる。また,この間の対外政策の展開としては,35年3月のベルサイユ条約軍事条項の破棄,翌36年3月のロカルノ条約破棄とラインラント進駐によるベルサイユ体制打破の行動,そしてその直後に始まるフランス,スペインを中心とする人民戦線運動に対抗するなかでの独,伊,日のファシズム3国の世界的規模での提携への動き(スペイン内乱でイタリアと協力してフランコを支援,36年11月の日独防共協定,翌37年11月の日独伊防共協定)が中心である。…
…そのもとで,共産党の弾圧,労働組合の解体,ナチス以外の全政党の解散が進められ,34年,ナチス突撃隊長レームの粛清と大統領ヒンデンブルクの死とともに,〈総統〉ヒトラーの独裁体制が完成する。
[ナチズムの勝利]
ヒトラーは,元ライヒスバンク総裁シャハトを〈経済独裁者〉に据えて失業の解消と再軍備を進め,〈生存圏〉〈東方帝国〉のための戦争準備に邁進した。1936年,軍拡景気の局面にはいり,4ヵ年計画も発足すると,重化学工業への資本と労働力の集中はいっそう進み,38年のオーストリアとの〈合邦Anschluss〉やズデーテン地方の併合などヒトラーの外交政策の一連の成功もあって,労働者の間にもナチスの帝国主義的ナショナリズムの影響がしだいにひろまった。…
…この間,31年10月にワイマール議会体制に反対する〈ハルツブルク戦線〉を右派勢力とともに結成し,工業界,農業界,軍部などの重要人物と提携を深めた。経済界からは,とくにルールの大工業家ティッセン,銀行業の有力者H.G.シャハトの支持を受ける。32年1月27日ヒトラーは,デュッセルドルフの工業クラブで演説,民主主義,マルクス主義排撃を強調して,工業家たちに感銘を与えた。…
…厳密にいえば,このモデルにいちばん近いナチス〈第三帝国〉の場合でも,ヒトラーとナチ党による全体主義支配が成立したのは1938年以降の後半期であり,イタリアのムッソリーニの場合は,そもそもその成立自体を否定する研究者が多い。〈ヒトラー体制〉といわれるものも,実際には,H.G.H.シャハト(国立銀行総裁。その財政手腕でヒトラーを助ける)らに代表されるような,伝統的エリートの協力なしには新しい体制を定着させることはできなかった。…
※「シャハト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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