通常、航路帯もしくは海上交通路、海上補給路と訳される。シーパワー論の創始者A・T・マハンは海洋を「広大な公有地」「一大公路」とみなした。そこに記されたさまざまな目的に基づく海上の道が広義のシーレーンである。日本では海上交易路一般の意味に用いられるが、もともとは軍事用語としてSLOC(Sea Lines of Communication)と限定的によばれ、洋上の作戦部隊と根拠地を結ぶ戦争遂行に必要な兵站(へいたん)・連絡のための海上交通線をさす。マハンによればSLOCの支配こそシーパワーの源泉だとされる。冷戦期の米海軍は、ソ連艦隊の海洋進出がアメリカのSLOC遮断にあると判断し、西側海軍と協力して対抗した。日本では、1978年(昭和53)に決定された「日米防衛協力のための指針」(通称日米ガイドライン)に基づく共同作戦計画の一つに組み入れられ、これをシーレーン防衛とよんだ。鈴木善幸首相は81年の訪米時、「シーレーンについては約1000海里を憲法上の自衛の範囲として守っていく」と述べ、以後、「シーレーン1000海里防衛」の名で定着することになった。その範囲はおおむねフィリピン以北、グアム以西とされる。軍事目的のSLOCが、より漠然としたシーレーンに移し替えられた理由は、日本の場合、集団的自衛権の行使や海外派兵が憲法上禁じられているため、個別的自衛権の範囲内で説明可能な用語が求められたと考えられる。『防衛白書』1983年版は「シーレーン防衛とは広域哨戒(しょうかい)、船舶の護衛、港湾・海峡の防備など、各種の作戦の組み合わせによる累積効果によって、海上交通の安全を確保すること」と解説している。この結果、大型護衛艦とP‐3C対潜哨戒機が多数導入されることになった。
[前田哲男]
『防衛学会編『国防用語辞典』(1980・朝雲新聞社)』
元来は船舶の海上航路のことであるが,有事の際に国民の生存と戦争遂行のため確保しなければならない海上交通路--軍事用語ではSLOC(スロツク)(sea lines of communicationの略)という--の意味で使用されることが多い。資源,エネルギー等の海外依存度の高い国家にとって,海上交通路の安全確保は安全保障上の重要な問題である。シーレーンは,単に船舶の航路と考える場合は海図上の線であるが,海上交通の安全確保のための航路として設定し,防衛の意味を含めて用いる場合は,幅をもった航路帯となる。海上交通保護の方法として第2次大戦までは船団護衛方式が主であった。その後,脅威の対象が水上艦艇から逐次潜水艦と航空機に移行し,ミサイル兵器と偵察衛星等が発達しつつある現在,船団護衛方式のほかに,一定の航路帯あるいは海域を防衛し,その安全海域内を自由に航行させる間接的保護の方式が考えられ,主用される傾向にある。すなわち,シーレーンを中心に幅数カイリから数十カイリ,状況によっては百数十カイリの海域を,水中設置の機器と艦艇,航空機等によって哨戒し,他の対潜・防空作戦等と組み合わせることによって,必要な海域の制海を確保して,海上交通路の安全を確保しようとするものである。1975年3月衆議院予算委員会でこの問題が取り上げられてからシーレーンという用語が一般的に使用されるようになったが,日本はおおむね本土から約1000カイリ程度の海域において必要が生じた場合に航路帯を設けうることを目標として,海上防衛力の整備を進めてきている。
執筆者:田尻 正司
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… しかし,日米安全保障協議委員会が了承したアメリカ軍と自衛隊との間の〈日米防衛協力のための指針〉(1978年11月)以降,上のような政府の説明は疑わしいものといわねばならない。とくに1980年代に入ってアメリカ政府から自衛隊に強く要請された〈シーレーン防衛〉や〈3海峡封鎖〉のような自衛隊による作戦行動は,(1)元来,ヨーロッパ,中東などでの世界的有事の際に日本周辺でアメリカ第7艦隊を守ることを目的として協力を要請されているものであること,(2)〈シーレーン〉は軍事戦略上〈戦線の作戦部隊と根拠地を結ぶ兵站連絡海上交通路sea lines of communications〉であり,単なる貿易航路帯を意味するものではないこと,などを考慮すると,これを受け入れるならば憲法解釈上〈個別的自衛権〉に限定している枠を大きく踏み越え,実際上〈集団的自衛権〉を前提とせざるをえないこととなる。
[新日米ガイドライン]
1996年4月の日米首脳による〈安保共同宣言〉は日米安保条約を,これまでの〈極東〉(フィリピン以北)から広げ〈アジア・太平洋地域〉の安定と,国連平和維持活動のための強力な〈同盟〉(the Alliance)へと,条約そのものを改定することなく両国政治首脳レベルで機能を転換した。…
※「シーレーン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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