アメリカの物理化学者。絶対零度近くまで温度を下げることができる「断熱消磁法」の発明で知られる。カナダのオンタリオ州ナイアガラ・フォールズで生まれる。1920年アメリカのカリフォルニア大学を卒業したのち、同大学の化学講師、同助教授、準教授を経て、1934年教授となる。1927年常磁性塩の断熱消磁によって絶対零度に近い温度が得られることを提案した。これは、極低温に冷却した常磁性塩に数万ガウスの強い磁場をかけ、磁気モーメントの方向をそろえることでエントロピーを減少させたのち、この磁場を断熱的に取り除くことにより磁性体の温度をいっそう降下させることが可能となるというもので、この説は1926年にデバイによっても独立に提唱された。のちにジオークはこの考えが正しいことを希土塩類を用いて実証し、0.1Kから0.01K以下の低温を得ることに成功、熱力学第三法則の実験的研究などに大きく貢献した。1949年極低温における物質の諸特性の研究に対する功績でノーベル化学賞を受賞した。
一方、1929年ジョンストンHerrick L. Johnston(1898―1965)とともに、酸素の760ナノメートルの吸収帯に隣接した弱い吸収帯が、原子量18および17の酸素同位元素と関係があることを理論的に明らかにし、これら同位元素の存在を初めて確認した。
[常盤野和男 2018年8月21日]
カナダ生まれのアメリカの物理化学者.1920年カリフォルニア大学バークレー校を卒業後,同校に残り,1934年教授となり,1962年に引退.生涯をバークレーで過ごした.1926年P.J.W. Debye(デバイ)とは独立に,ほぼ同時に断熱消磁の熱力学的考察を発表した.すなわち,極低温下の常磁性塩に強い磁場をかけて磁気モーメントを偏極させた後,磁場を断熱的に取り除くことで,さらに低い温度が得られることを結論し,実際に液体ヘリウム中で1 K に冷却した希土類塩の断熱消磁により1 K 以下の低温(0.53 K)を得た.また,1929年には酸素の吸収帯に近接したきわめて弱い帯が16O18Oおよび16O17Oによることを理論的に証明し,酸素の同位体の存在をはじめて確認した.化学熱力学,とくに極低温での物質の挙動に関する研究で,1949年ノーベル化学賞を受賞した.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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