公称は「横浜市よこはま動物園」。「ズーラシア」とは、その存在が一層親しまれることを願って公募された愛称である。1999年(平成11)4月24日に、横浜市の三番目の動物園として開園、「生命の共生、自然との調和」を趣旨とする。ズーラシアは、横浜市の旭区から緑区にまたがる丘陵地にある103.3ヘクタールの「横浜動物の森公園」の、約半分の53.3ヘクタールを占める動物園部分にあたる施設である。動物園としては国内最大級の広大な園地を誇る。オカピ、インドライオン、キンシコウなど約70種400点(2006年7月現在)の動物が展示・飼育されている。
[増井光子]
横浜市には、すでに1951年(昭和26)に野毛山(のげやま)動物園が、1982年には金沢動物園が開園しており、そこへまた三番目の動物園を開設しようという背景には、相応の理由があったといえる。
人が野生動物に強い関心を抱き、それを収集しようとした歴史は古い。紀元前3000年のころからすでに王侯貴族の宮廷などに野生動物が集められてきた。そして18世紀半ばから19世紀にかけてのヨーロッパにおいて、現代の動物園に通ずる近代動物園の誕生がみられる。
動物園のもつ社会的役割としては、従来より、(1)動物学的調査研究、(2)生涯学習、(3)自然保護思想の啓発、(4)レクリエーション、の4項目があげられてきた。この4項目は均衡がとれているのが望ましいが、ややもすればレクリエーション機能が突出するきらいがある。とくに、日本でのこれまでの動物園のあり様や人々の認識度からすると、動物園は遊園地の一つとみなされていたように思われる。いきおい動物園も多くの人の期待に応えるべく、世界の「珍獣奇獣」の収集に熱を入れ、展示種の豊富さを競う傾向が続いた。しかし、人の経済活動の拡大につれて、自然環境は荒廃の一途をたどり、ようやく環境保全の重要性に世人も気づくようになってきた。
人の暮らしが安定してくるにつれ、ほかの動物の置かれている状況を思いやるゆとりも生じ、動物の福祉に関する意見も市民権を得るようになってきた。国の内外を問わず動物園のあり方は、いつの世も社会の動きと連動している。このような環境問題への関心は、1970年代からしだいに強くなりだした。1973年には希少野生動物の商取引を規制するワシントン条約が採択され、日本でも1980年11月より発効して、今ではよく知られるようになっている。
また、世界的な動物園の連合体として1946年から活動している世界動物園水族館協会World Association of Zoos and Aquariums(WAZA)があり、設立当初から時代に即したさまざまな提言を行ってきているが、近年の状況から、動物園の掲げる重要な役割として、種の保存事業と環境教育・学習プログラムの充実を推奨するようになってきた。一方、飼育動物への配慮を求める声もしだいに高くなり、1980年代には、「人と動物の関係」を研究する国際会議も開催されるようになってきた。このような周辺事情の変化に対応すべく、新しい動物園の開設が検討され、「生命の共生、自然との調和」をテーマとする新しい動物園ズーラシアがつくられたのである。
[増井光子]
1999年の開園当初、来園者から「テーマパークのようだ」という声がよく聞かれた。当時は、鉄格子の檻(おり)が立ち並ぶ従来の動物園にくらべ、無柵で植栽に包まれた気候帯別の展示は、動物園のイメージの外にあったのであろう。
ズーラシアの特徴の一つに植栽の豊富さを挙げることができる。従来は動物園にも園路に花壇や植木はあるものの、動物舎の中にはほとんど植栽はなかった。ところがズーラシアでは園路はもちろんのこと、動物舎の中までも、可能な限り植栽が施されている。
動物園の展示法は、檻で囲われた狭い動物舎や地面を掘り下げて上から覗き込むピット式から、広い放飼場を柵や水濠、堀などで囲う無柵放養式など、時代とともに変化がみられる。ズーラシアの展示法は、1980年代にアメリカの西部の動物園で始まった、可能な限り棲息地の環境を再現した、環境展示とも生態学的展示ともいわれる手法を踏襲している。それは動物園の役割の一つに環境教育・学習機能の充実が推奨されることと関連している。来客に環境保全の大切さや種の保存の重要性を訴えるとき、自然界とかけ離れた展示では効果が薄いと考えられたのである。世界の気候帯の特徴的な動植物を通じて、われわれのすむ地球環境に思いを馳せてほしいとの気持ちからである。
現在、園地は入り口を入ってすぐの「アジアの熱帯林」から、「亜寒帯の森」「オセアニアの草原」「中央アジアの高地」「日本の山里」「アマゾンの密林」「アフリカの熱帯雨林」と続き、それぞれの区域には動物とともに現地の雰囲気を醸し出せるように、原産地の植物に近縁の樹木を植え込み、現地の民具なども配置している。開設以来少しずつ園地を広げ、2006年には自然体験林を公開、今後は「アフリカの熱帯雨林」の拡充や「ふれあい広場」の開設が予定されている。
では動物園を緑豊かにして、はたして効果はあったのだろうか。来園者の意識調査では、プラスの評価としては、(1)清潔感があり、さわやか、きれい、(2)樹木に囲まれた園路を歩くと、気持ちがいい、(3)動物が美しい、臭くない、などがある。マイナス評価としては、(1)動物が見えにくいところがある、(2)動物ともっと触れ合いたい、などがある。たしかに、ズーラシアの緑豊かな環境での動物は美しい。その動物がより自然にふるまえる環境は、動物の健康や繁殖にもよい影響を与えていると考えられる。
なお、通常展示のほか、ガイドツアー、ズーラシア教室、企画展、ワークショップなどの教育・普及活動、夏季には「ナイト・ズーラシア」と称する夜間公開なども行われている。また、ズーラシアンブラス(ズーラシアのマスコットキャラクターである金管五重奏団。音楽家たちが指揮者オカピなどの希少動物に扮して演奏、音楽のすばらしさを伝える)の園内コンサートがある。
[増井光子]
ズーラシアに希少動物が多いのは、種の保存を行っていくことを目的の一つとしているためである。また、他園では繁殖困難な希少種の繁殖が多くみられることも、特徴に挙げてよいだろう。特筆すべきは、敷地内に横浜市の繁殖センターという研究施設を有することである。動物園に楽しみは不可欠であるが、それは日々の観察や調査から得られる正確な情報に裏打ちされたものでなければならない。単におもしろおかしい施設であってはならないのである。動物園は動物学の研究の場であるといわれて久しいが、本格的な研究施設が併設されたのは、日本ではズーラシアが初めてである。センターでは自前の研究のほかに、外部の大学や研究機関と連携して野生動物に関わるさまざまな分野の研究を行っている。
[増井光子]
動物園は、楽しみながら自然界について学ぶことのできる生涯学習施設でもある。来園者に大いに楽しんでもらう上で、レストランやギフトショップなどの便益施設の充実は重要である。園内のギフトショップには、常時約3000品目の商品が並び、そのうちの6割はオリジナルである。とくにオカピ・グッズは種類も豊富で、ズーラシアならではのものとして海外からも評価を得ている。ほかに世界でも類をみないヤブイヌ、ターキンなどのグッズもあり、こうした動物園グッズの開発や独自性には大いに力を入れている。入退園ゲート広場にあるアイスクリーム・ショップでは2005年5月のゴールデン・ウィーク中の売り上げ日本一を記録したが、動物園に付帯する便益施設・商品の質についても豊かな内容を目ざしている。
[増井光子]
『増井光子著『都会の中の動物たち』(1991・主婦の友社)』▽『増井光子著『動物が好きだから』(2003・どうぶつ社)』▽『菅谷博著『動物園のデザイン』(2003・INAX出版)』▽『内山晟監修『超はっけん大図鑑14 たんけん!はっけん!動物園』(2003・ポプラ社)』▽『市民ZOOネットワーク著『いま動物園がおもしろい』(2004・岩波ブックレット)』▽『小菅正夫著『「旭山動物園」革命――夢を実現した復活プロジェクト』(2006・角川書店)』▽『石井理恵著『レッサーパンダ・デールの小さな物語』(2006・新風舎)』▽『川崎泉著『動物園の獣医さん』(岩波新書)』▽『川端裕人著『動物園にできること――「種の方舟」のゆくえ』(文春文庫)』
出典 日外アソシエーツ「事典・日本の観光資源」事典・日本の観光資源について 情報
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