タカアシガニ(読み)たかあしがに(英語表記)Japanese giant crab

日本大百科全書(ニッポニカ) 「タカアシガニ」の意味・わかりやすい解説

タカアシガニ
たかあしがに / 高足蟹
Japanese giant crab
[学] Macrocheira kaempferi

節足動物門甲殻綱十脚(じっきゃく)目クモガニ科に属するカニ。1属1種の日本特産の巨大なカニで、岩手県沖から九州沿岸までの水深200~300メートルにすんでいるが、春の産卵期には20メートルくらいの浅海までくる。そのためヒガンガニ(彼岸蟹)とよぶ地方がある。房総半島の小湊(こみなと)沖、相模(さがみ)湾、駿河(するが)湾、熊野灘(なだ)、土佐湾、宮崎県土々呂(ととろ)沖などが主要な産地で、とくに駿河湾ではタカアシガニを対象とした漁が行われている。伊豆(いず)半島西岸各地ではオオガニとよんで食用とし、高価で販売している。肉は繊維性に乏しくて軟らかく、また自己消化によっていたみやすい。

 甲は長さ35センチメートルに達する洋ナシ形で、大小のいぼ状突起で覆われ、胃域、心域、腸域、鰓域(さいいき)が明瞭(めいりょう)に区分されている。そのため、甲面はヘイケガニ類ほどではないが、やはり人の顔を思い起こさせる。各地の漁村で墨で人面を描き、鴨居(かもい)などにかけて悪魔除(よ)けにする。成体では額棘(がっきょく)が短く、甲長の8分の1ほどで、外側へ強く曲がっているが、甲長5センチメートルくらいまでの幼ガニでは額棘は甲長の2分の1に近く、まっすぐ斜め前方に伸びている。また、幼ガニでは甲面が長毛で覆われていて、タカアシガニとは思えないほどである。雌のはさみ脚(あし)は短いが、十分に成長した雄でははさみ脚が歩脚よりずっと長くなり、左右に広げると3メートルを超えるほどになる。この長さは節足動物のうちで世界最大である。はさみ脚、歩脚とも各節は円筒状で、海底をゆっくりと前や横に歩く姿はカニの王者にふさわしく、水族館や博物館での人気者である。

武田正倫]


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改訂新版 世界大百科事典 「タカアシガニ」の意味・わかりやすい解説

タカアシガニ (高脚蟹)
Macrocheira kaempferi

甲殻綱クモガニ科に属する世界最大のカニで,1属1種。甲長35cm,甲幅30cmほどのヨウナシ型。十分に成長した雄でははさみ脚が歩脚よりもはるかに長くなり,左右に広げると3m以上になる。甲面は大小のとがったいぼ状突起で覆われ,さらに蔓脚(まんきやく)類のヒメエボシが多数付着している。額のとげは甲長の1/8ほどで,外側に強く曲がっている。幼個体では甲面に短毛が密にはえ,額のとげはあまり開かず,甲長の1/2に近い。そのため,幼個体は大型個体とは別種のような感じを受ける。甲殻類のみならず節足動物中で最大である。眼窩(がんか)の構造が不完全などの理由によってクモガニ類中で下等な位置におかれる。水深200~300mの海底にすむが,初春には雌は産卵のために20mほどの浅海にやってくる。岩手県沿岸から九州までの太平洋側に特産のカニで,Japanese giant crabとして海外でも有名である。多産する駿河湾ではタカアシガニを対象とした漁が行われているが,味はあまりよくない。甲に墨で人面を描き,魔よけのお守とする。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タカアシガニ」の意味・わかりやすい解説

タカアシガニ
Macrocheira kaempferi; Japanese giant crab

軟甲綱十脚目クモガニ科。甲長 35cm。1属 1種。成長した雄では鋏脚が長大になり,左右に広げると 3.5mをこえる。甲には大小のいぼ状突起がある。額棘は,成体では短く,外側に強く湾曲しているが,幼体ではあまり開かず,甲長の 2分の1ほどの長さである。眼窩が不完全なため,クモガニ科のなかでは下等な位置に置かれている。甲には多数のヒメエボシガイ Poecilasma kaempferi(顎脚綱有柄目)がつく。岩手県以南九州沿岸までの太平洋側の水深 50~300mの海底にすむほか,台湾近海,東シナ海北部,鳥取県沖でも記録された。甲殻類のみならず節足動物中で最大。駿河湾などでは底引網で漁獲され,食用にされる。近年は大型個体が少ない。(→十脚類軟甲類

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百科事典マイペディア 「タカアシガニ」の意味・わかりやすい解説

タカアシガニ

甲殻類クモガニ科のカニ。日本特産で世界最大のカニ。大きい個体では甲長35cm,甲幅30cm,はさみ脚を広げると3m以上のものもある。甲は西洋ナシ形,体色は黄色で赤い斑がある。額角は幼時には長いが,成長すると短く根元から外に開く。本州,四国,九州の太平洋岸に分布。200〜300mの海底にすむ。雄は食用にする。
→関連項目カニ(蟹)

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世界大百科事典(旧版)内のタカアシガニの言及

【カニ(蟹)】より

…一般的に雄のはさみ脚が大きく,そのうえ,左右の大きさを異にすることも多いが,シオマネキ類の雄のように極端に大きさが異なるのは例外的である。テナガコブシガニ,タカアシガニエンコウガニなどでは,雄の二次性徴としてはさみ脚が異常に巨大化するが,これは雄としての単なる象徴ではなく,交尾の際に雌を抱きかかえるのに有効である。4対の歩脚は一般に単純な棒状であるが,最後の1~2対が泳ぐためや砂に潜るため,あるいは他の目的のために変形していることも少なくない。…

※「タカアシガニ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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