翻訳|technetium
周期表第7族に属し、マンガン族元素の一つ。原子番号43の元素の探求は古くから行われ、1908年(明治41)日本の小川正孝(まさたか)(1865―1930)のニッポニウム(これはそのころ、未発見であった同族元素のレニウムであることが後になって推定されている)、1925年ドイツのW・K・F・ノダックのマスリウムの発見が報告された。しかし、これらは誤りであることがわかった。1936年アメリカのE・O・ローレンスは、サイクロトロンの中でモリブデンに重水素のビームを長期間照射したサンプルをイタリアのセグレに送ったが(セグレはもともとバークリーでその研究をしていた)、セグレはペリエとともにこの中から43番元素であると考えられるものを分離した。さらに1940年セグレらはウランの核分裂生成物中からかなりの量の43番元素を得ることに成功した。これは人工的に初めてつくられた元素なので、人工を意味するギリシア語technikosにちなんで命名された。天然にもウランの自然核分裂により痕跡(こんせき)量が存在する。ウランの核分裂生成物からプルトニウムなどを除いて容易に回収されるので、現在では同族のレニウムよりむしろ入手しやすい。質量数90から110までの同位体はすべて放射性で、そのうち多量に得られるのは99(β-放射、半減期21万2000年)である。また98Tcはβ-放射、半減期4.2×106年である。銀灰色の金属。湿った空気中で徐々に酸化皮膜に覆われるが、400℃以上に熱すると酸化テクネチウム(Ⅶ)を生じる。フッ化水素酸、塩酸に不溶だが、硝酸、濃硫酸に溶ける。酸化数Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅵ、Ⅶの化合物が知られる。医用トレーサーとして用いられる。99Tcはβ線の標準線源として用いられる。
[守永健一・中原勝儼]
マンガンおよびレニウムとともに周期表第ⅦA族に属する金属元素の一つ。1937年,ペリエC.PerrierとセグレE.G.Segréがモリブデンに重陽子を照射して初めてつくった元素で,人工的につくられた最初の元素である。〈人工の〉を意味するギリシア語technētosに因んで命名された。1925年にドイツのノダックW.K.F.NoddackとタッケI.E.Tackeが白金鉱あるいはコロンバイトから75番元素レニウムとともに43番元素を発見したとし,マスリウムmasuriumと名づけたが,他の研究者からは確認されず,その存在は否定された。同位体中でとくに長寿命のものは98Tc(半減期4.2×106年),97Tc(2.6×106年),99Tc(2.14×105年)であり,この程度の半減期では,地球ができたときにテクネチウムが存在していたとしても,現在まで残っているとは考えられない。しかし,ウランの自発核分裂によってできたきわめて微量のテクネチウムが天然に存在することは確認されている。また,ある種の星についてはテクネチウムのスペクトルが認められている。
銀灰色の金属。六方最密構造。塊状のものは酸化されにくいが,粉末は容易に燃焼して酸化物となる。フッ素と激しく反応してフッ化物を生ずる。塩素とも反応する。スポンジ状金属は硝酸,王水,濃硫酸に溶けるが,フッ化水素酸や塩酸には溶けない。中性ないし酸性の5%過酸化水素水や温臭素水に溶ける。いずれの場合にも過テクネチウム酸イオンTcO4⁻を生ずる。
おもな原料はウランの核分裂生成物で,最終的にはたとえばTcO4⁻の形でイオン交換等により精製される。金属は硫化テクネチウム(Ⅶ)Tc2S7の水素還元やヘキサクロロテクネチウム(Ⅳ)酸アンモニウム(NH4)2[TcCl6]の熱分解により得られる。核分裂で得られる99Tcの収率は約6%にもなり,毎年キログラム単位でつくられている。
99Tcはβ⁻線の標準線源として用いられ,99mTcは医用トレーサーとしてきわめて広く用いられる。
執筆者:近藤 幸夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
Tc.原子番号43の元素.人工放射性元素.電子配置[Kr]4d55s2の周期表7族第5周期遷移元素.テクネチウムの同位体は現在,質量数85~118まで知られている.D.I. Mendeleev(メンデレーエフ)がエカマンガンとして予言していた元素.1925年にW. Noddack(ノダック)とI. Tackeがウラン鉱物中にX線蛍光スペクトルから43番元素を発見したと報告し,ノダックの故郷の地名Masuriaにちなんでマスリウムと命名したが受け入れられず,1937年にC. PerrierとE. Segréがカリフォルニア大学バークレー校のサイクロトロンで,加速した重陽子でモリブデンを衝撃して合成したものが,確認された最初の43番元素.その後も地球上のTcの探索が続けられ,1962年に至り,P.K. Kuroda(黒田和夫)とB.T. Kennaがアフリカ・ガボン産のせんウラン鉱中に,ウランの自発核分裂生成物として微量の存在を確認した.S,M,N型星にもスペクトル線から存在が推定される.最近,ノダックらのX線スペクトルを詳細に再検討したところ,かれらもTcを見つけていたことが判明した.はじめて人工的につくられた元素として,Segréたちが“人造の”を意味するギリシア語τεχνητο(technètos)からtechnetiumと命名した.99Tc は,半減期2.11×105 y の比較的安定な β- 崩壊核種で,原子炉使用済みウラン燃料中に核分裂生成物として多量に存在する.現在,医学の分野で広く利用されている 99mTc は,半減期6.0058 h で0.143 MeV のγ線を放出する核種で,99Mo の娘核種として得られる.半減期61 d の 95mTc もトレーサーとして使用される.銀灰色の六方最密金属.融点2172 ℃,沸点4877 ℃.密度11.5 g cm-3(20 ℃ 計算値).7.8 K 以下で超伝導を示す.第一イオン化エネルギー7.28 eV.金属は過テクネチウム酸アンモニウムの水素による還元で得られる.硝酸,王水,濃硫酸に可溶,塩酸に不溶.酸化数2~7.7がもっとも安定で過テクネチウム酸(テトラオキソテクネチウム(Ⅶ)酸イオン)TcO4-として種々の塩をつくる.フッ化物TcF5,TcF6,塩化物TcCl4,TcCl6,臭化物TcBr4などが知られる.酸化物中Tc2O7は融点119.5 ℃,沸点310.6 ℃ でかなり揮発性である.[CAS 7440-26-8][CAS 14133-76-7:99Tc][CAS 12165-21-8:Tc2O7]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…天然に存在せず,人工的方法(核反応)によってのみ作り出される元素をいう。ふつう,周期表上原子番号43のテクネチウムTc,61のプロメチウムPm,85のアスタチンAt,87のフランシウムFr,および93のネプツニウムNp以降の諸元素(超ウラン元素)を人工元素とみることが多い。しかし,この定義は厳密なものとはいえない。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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