大日本帝国憲法下において国法上天皇に属するとされていた権能。広義には統治権の全範囲で,立法権・司法権も含む(大日本帝国憲法17条)。狭義には議会の協賛を経ず,あるいは独立の機関に委任することなく,天皇が独裁する行為をいう。憲法が列記したもののみを狭義の大権事項とみるか,憲法の列記は例示であるとみるかについては争いがあったが,両説はそれぞれ,列記大権事項の行使に議会が参与することは排除されているとみる考え方,および,単に参与することは必要でないとされているとみる考え方と結びついていた。例えば,前説では12条で大権事項とされた陸海軍の編制を法律で定めることは許されないが,後説では法律で定めることも可能とされた。憲法が列記する大権事項は,(1)立法大権(法律を裁可し,法律の公布・執行を命じること。6条),(2)議会に関する大権(召集,開会,閉会,停会を命じること,衆議院の解散,選挙を命じることなど。7,34,42,43,45条),(3)緊急勅令の大権(8,70条),(4)行政上の命令大権(執行命令,独立命令等を発すること。9条),(5)官制および任官大権(10条),(6)統帥大権(11条。統帥権),(7)軍政大権(12条),(8)外交大権(宣戦,講和,条約締結。13条),(9)戒厳大権(14条),(10)非常大権(31条),(11)栄誉大権(15条),(12)恩赦大権(16条),(13)憲法改正大権(73条)である。これら大権を天皇が行うにあたっては国務大臣が輔弼し,その責任を負うのが原則であるが(55条),統帥大権,栄誉大権は慣習法的に国務大臣の輔弼の範囲外とされていた。なお,これら国務上の大権のほか,重要な天皇の大権として,皇室の家長として皇室事務を総攬する皇室大権と,最高の祭主としての祭祀大権があった。
→天皇
執筆者:横田 耕一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
明治憲法下において天皇に属する権能をいう。皇室典範、皇室令が定める宮務(皇室)大権、憲法上の統帥(とうすい)大権、国務大権、慣習法上の祭祀(さいし)大権の別がある。宮務大権は、1885年(明治18)内閣制度が成立し、宮内省が内閣の外に置かれるようになってから、他の大権と明確に区別されるようになった。皇室の事務に関する大権で、もっぱら宮内大臣の輔弼(ほひつ)によって行われる。統帥大権とは統帥の事務(軍令事務)に関する大権で、軍令大権、帷幄(いあく)大権などともよばれる。憲法以前からの慣習法により国務大権とは厳格に区別されて、天皇自らが行うのを原則とした。「天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス」(大日本帝国憲法11条)と規定したのは、そのことを確認したものである。統帥の事務に関し勅許を仰ぐ場合は、内閣総理大臣を経ずに、直接、参謀総長、軍令部総長または陸・海軍大臣から奏上された。これを「帷幄上奏(いあくじょうそう)」といい、また国務大臣の輔弼が及ばないという原則を「統帥権の独立」といった。国務大権は広く国務に関する大権をいい、国務大臣の輔弼によって行われた。立法、議会の組織と開閉、官制と任官、軍の編成、外交、戒厳、栄典授与、恩赦に関する大権のほか非常大権などが含まれる。立法に関する大権事項のなかには、公共の安寧秩序を保持し臣民の幸福を増進するために法律から独立して発せられる独立命令(同憲法9条)、緊急の場合に法律にかわって発せられる緊急命令(勅令)があり(同憲法8条)、議会の干与を必要としなかった。そのため議会との関係において、天皇(政府)の権能を強くし議会の地位を弱めるのに役だった。
[池田政章]
非常大権とは、戦時または国家事変の際に臣民の権利の全部または一部を停止する権能をいうが(同憲法31条)、その内容は明確ではなく、実際には一度も発動されなかった。しかし、この制度の存在は、国民の権利も天皇(政府)の意思の下に認められたものにすぎないことを示している。
[池田政章]
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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