1932年の五・一五事件後に危機意識をあおり,国民を国家総力戦体制に動員する地ならしをおこなうために用いられた流行語。この言葉は,満州事変勃発後における日本の国際的孤立化,血盟団事件や五・一五事件などの政治テロの横行,農業恐慌の深刻化,労農運動の継続など,内外の危機的状況を包括的にあらわす言葉として用いられ,斎藤実・岡田啓介両内閣をはじめ,軍部・右翼・ジャーナリズムなどによって高唱された。具体的には内政面では政党政治の否認,軍部と新官僚の発言権強化の容認,農山漁村経済更生運動による農民の組織化など,国際面では反中国・反国際連盟を中心とする排外主義の高唱,ワシントン海軍軍縮条約の期限切れを理由とする〈1935,36年の危機〉説の宣伝と軍備拡張の主張など,思想面では国体明徴運動にみられるような天皇崇拝と日本主義国体論による国民の思想統一などが,いずれも〈非常時〉の合言葉のもとにおこなわれた。これらの動きは,国民を国家総力戦体制に動員する方向に収斂されていったが,36年の二・二六事件後の広田弘毅内閣期には〈準戦時体制〉という新たな用語が用いられるようになった。
執筆者:木坂 順一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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