トウダイグサ(その他表記)sun spurge
wartweed
Euphorbia helioscopia L.

改訂新版 世界大百科事典 「トウダイグサ」の意味・わかりやすい解説

トウダイグサ
sun spurge
wartweed
Euphorbia helioscopia L.

平地の路傍や河畔に普通に見られるトウダイグサ科の二年草。ユーラシア暖温帯に広く分布し,日本では本州,四国,九州に産する。高さ30cm内外。切ると白色の乳液が浸出し,有毒。葉は互生し,倒卵形で細かい鋸歯がある。茎の先に5枚の輪生葉が生じ,5本の分枝に黄緑色で広卵形の苞葉と,径2mmほどの杯状花序を密につける。和名はこの風変りな草形を昔の灯台に見立てたことに由来している。花期は4~5月ごろ。トウダイグサ属に特徴的な杯状花序は,花冠に似た腺体が4個ある杯状体に包まれ,中央に1個の雌花,周囲に数個の雄花の集合した花序である。花被はなく,雌花,雄花はただ1本のめしべあるいはおしべからなり,苞葉が花冠,杯状花序がおしべ,めしべ,蜜腺の代りとなって全体として単一の花の機能をもつ,きわめて特殊化したものである。腺体の形や色は,種を見分けるよい形質であり,本種では楕円形で黄緑色。果実は平滑な分離果で3裂し,褐色で網紋のある種子を各1個ずつ入れる。乳液を殺虫剤とし,漢方では全草を解熱,去痰,利尿剤として用いる。また,種子からは工業用油がとれる。この属名はローマ時代のマウレタニア王ユバ2世(前1世紀ころ)の侍医エウフォルブスEuphorbusに因むといわれ,古くから薬用にされた。

 トウダイグサ(ユーフォルビア)属Euphorbia(英名spurge)は亜熱帯を中心に2000種あり,日本には20種が自生する。タカトウダイE.pekinensis Rupr.は,本州,四国,九州の丘陵地に生育する多年草。高さ70cmになり,深緑色,長楕円形の葉をつける。花期は6~7月。杯状花序の腺体は長楕円形で暗褐色。中国では大戟(たいげき)といい,根を利尿剤とする。ナツトウダイE.sieboldiana Morr.et Decne.は日本全土の丘陵地に産する多年草。高さ30cm内外。花期は4~6月。三角形の苞葉と,暗紫色三日月形の腺体が特徴。根は利尿剤となり,甘遂(かんずい)E.kansui Liouの代用として用いられる。ノウルシE.adenochlora Morr.et Decne.は,あぜなど平地の湿った草地に群落を形成する多年草で,高さ50cm内外。北海道,本州,九州に分布する。花期は4~5月ごろ。苞葉も腎形の腺体も黄色で,雄花の基部に鱗片がある。和名はウルシに似た乳液が出ることによる。ハマタイゲキE.atoto Forst.f.は,九州,沖縄の海岸砂地に生える多年草。中国南部,台湾,東南アジア,太平洋諸島にかけ広く分布する。高さ30cm内外。短い柄のある多肉質の葉を対生する。花は1~9月に咲く。腺体は横長楕円形。これら4種はすべて有毒植物である。

300属5000種を含む科で,双子葉植物ではキク科,マメ科,アカネ科に次ぐ大きな科である。アフリカとアメリカの熱帯に分布の中心があるが,温帯にかけても広く分布し,寒帯や高山帯には見られない。日本には20属50余種が自生する。一年草から高木にいたる多様な生活形を含み,アフリカやカナリア諸島の乾燥地に生えるものは,サボテンに似た多肉植物となる。花は単性で,多くは雌雄同株。大部分虫媒花で,鳥媒花,風媒花を含む。小型の花が総状花序や円錐花序をなし,あるいは葉腋(ようえき)に束生するほか,さまざまに特殊化した偽花をつくる傾向があり,その最も極端なものがトウダイグサ属の杯状花序である。個々の花は本来は5数性の放射相称花とみなされるが,花被を欠くものが多く,トウダイグサ属などの虫媒の属では苞葉が美しく発達し,花冠の代りとなる。花柱は3裂し,子房上位で,多くは3室からなる合生子房。中軸胎座。果実は分離果,ときに核果または漿果(しようか)。種子は胚乳を多く含む。この科は,子房の各室に2個の胚珠をもつコミカンソウ亜科と,胚珠1個のハズ亜科,トウダイグサ亜科に分けられ,コミカンソウ亜科は花序や果実の特徴により,ときには,さらにいくつかの亜科に区分されることもある。トウダイグサ亜科は,杯状花序を形成する点で最も特殊化した一群であり,また乳管組織があり,切ると乳液が浸出する点でハズ亜科と異なる。離弁花類に帰属させるのが一般的で,ニシキギ目との類縁が考えられているが,無花弁類とされたり,自然群かどうか疑問視する見解もあり,系統関係はいまだ明らかでない。

 この科は生活形が多様化し,乳管を有する群,種々のアルカロイドを含有するものなどもあり,人間にも多様に利用されている重要な植物群である。乳液からはゴムがとれ,南アメリカ原産のパラゴムノキは熱帯で広く栽培され,ゴム源として最も重要なものである。また,マニホットゴムノキからはシーラゴムがとれる。種子が含む油脂は,アブラギリのキリ油,ナンヨウアブラギリのクルカス油,ヒマのヒマシ油など,灯油,工業用油として重要なものが多い。中国や日本ではナンキンハゼからろうそくが作られる。有毒植物が多いが,ナンキンハゼの種子やフィリピンのAntidesma bunius,インドのCicca属の果実のように食用になるものもあり,タピオカの原料となるキャッサバ(イモノキ)は,塊状に肥大した根(いも)を食用にする熱帯における最も重要な栽培植物の一つである。ハズや下剤として知られるヒマなど薬用となるものも多い。北西アフリカのEuphorbia resiniferaの乳液は,ガム・ユーフォルビアと呼ばれ,狭心症の治療薬として用いられた。珍奇な形態や美しい苞葉によって園芸的価値の高いものもあり,ヒマや,トウダイグサ属のハナキリン,ハツユキソウ,ポインセチアなどが栽培される。また,クロトン類は代表的な観葉植物の一つである。熱帯域には,オオバキ属を代表とする初期生育の速い樹種が多数あり,二次林の主要構成樹になっているが,急速緑化・造林樹種としても有用性が注目されている。
ユーフォルビア
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「トウダイグサ」の意味・わかりやすい解説

トウダイグサ
とうだいぐさ / 灯台草
[学] Euphorbia helioscopia L.

トウダイグサ科(APG分類:トウダイグサ科)の越年草。茎は普通基部から分枝し、高さ20~50センチメートル。上方にはまばらに長毛がある。葉は互生し、下部の葉は小さく、上部の葉は大きく茎の先にやや輪生状につき、へら状倒卵形で長さ1~3センチメートル。葉先は丸いかややへこみ、基部はくさび形、縁(へり)に鋸歯(きょし)がある。総包葉は倒卵形、黄緑色でやや小形。4~5月、多数の複合杯状花序を密につける。腺体(せんたい)は楕円(だえん)形で黄色。蒴果(さくか)は平滑で径約3ミリメートル、毛はない。種子は倒卵形で褐色、隆起した網紋がある。道端や川原などに生え、日本全土、およびアジア、ヨーロッパの暖帯に広く分布する。名は、黄色い花をつけて分枝した形状を、灯をつけた灯台(燭台(しょくだい))に見立てたもの。近縁種にタカトウダイ、ナツトウダイ、ノウルシなどがある。すべて杯状花序をつくり、花序の軸の内側に1本の雄しべからなる多数の雄花と、その中央に1本の雌しべからなる雌花がある。

[小林純子 2020年6月23日]


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百科事典マイペディア 「トウダイグサ」の意味・わかりやすい解説

トウダイグサ

スズフリバナとも。トウダイグサ科の二年草。本州〜沖縄,アジア〜ヨーロッパの暖地に分布し,道ばたなどにはえる。茎は高さ30cm内外,切れば白い乳液が出る。葉はへら形で互生し,縁には細かい鋸歯(きょし)がある。花は春咲き,この属独特の杯状花序をなして,黄緑色の総包が目だつ雌花と雄花がある。のちに球形の果実を結ぶ。有毒植物。花期の草姿が昔の灯火の台を思わせるのでこの名がある。外国産の近縁種にはポインセチアハナキリンアオサンゴ,北米原産で白覆輪の葉をもつハツユキソウ,メキシコ原産で花が赤または桃色の温室用花木ユーフォルビア・フルゲンスなど,広く栽培されているものが多い。
→関連項目ナツトウダイ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トウダイグサ」の意味・わかりやすい解説

トウダイグサ(灯台草)
トウダイグサ
Euphorbia helioscopia; sun spurge

トウダイグサ科の二年草で,旧大陸の暖温帯に広く分布する。日本では北海道を除く各地の平地の路傍や堤防などに普通に生える。晩秋に芽を出して越年し,翌年の春に開花する。茎は 20~40cmの高さで,円柱形で強く,直立する。葉や茎に白い乳液を含み有毒とされる。葉は互生し無柄のへら形または倒卵形で,長さ2~3cmあり,縁に細かい鋸歯がある。枝先の分枝点では5枚の葉が輪生する。雌雄異花で4~5月に開花する。茎頂に生じる花序は一見1つの花に見えるが,壺形に癒着した総包葉内に数個の花が入ったもので杯状花序と呼ばれる。この花序には1個の雌花と数個の雄花があり,雌花はめしべ1本だけ,雄花はおしべ1本だけから成り,花被はない。種子は球状卵円形で褐色の網目模様がある。植物体が,昔あかりに用いた灯架に似ているのでトウダイグサという。同属の近縁種にタカトウダイ (高灯台),ナツトウダイ E. sieboldianaがあり,ともに各地の丘陵地に自生する。

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