(読み)オニ

デジタル大辞泉 「鬼」の意味・読み・例文・類語

おに【鬼】

《「おん(隠)」の音変化で、隠れて見えないものの意とも》
[名]
仏教、陰陽道おんようどうに基づく想像上の怪物。人間の形をして、頭には角を生やし、口は横に裂けて鋭いきばをもち、裸で腰にトラの皮のふんどしを締める。性質は荒く、手に金棒を握る。地獄には赤鬼・青鬼が住むという。
1のような人の意から》
㋐勇猛な人。「の弁慶」
㋑冷酷で無慈悲な人。「渡る世間にはない」「心をにする」
㋒借金取り。債鬼。
㋓あるひとつの事に精魂を傾ける人。「仕事の」「土俵の
鬼ごっこ隠れんぼうで、人を捕まえる役。「さん、こちら」
紋所の名。鬼の形をかたどったもの。
目に見えない、超自然の存在。
㋐死人の霊魂。精霊。「異域のとなる」
㋑人にたたりをする化け物。もののけ。
南殿なんでんの―の、なにがしの大臣おとど脅かしけるたとひ」〈・夕顔〉
飲食物の毒味役。→鬼食おにく鬼飲おにの
「鬼一口の毒の酒、是より毒の試みを―とは名付けそめつらん」〈浄・枕言葉〉
[接頭]名詞に付く。
荒々しく勇猛である意を表す。「将軍」
残酷・無慈悲・非情の意を表す。「ばば」「検事」
外見が魁偉かいい・異形であるさま、また大形であるさまを表す。「歯」「やんま」
[補説]近年、俗に、程度がはなはだしいさまを表すのにも用いられる。「のように忙しい」「うまい」「でん(=短時間に何度も電話をかけること)」
作品名別項。→
[下接語]異郷の鬼牛鬼かがみ鬼隠れ鬼心の鬼人鬼向かい鬼雪鬼
[類語]化け物お化け妖怪怪物悪魔通り魔

き【鬼】[漢字項目]

常用漢字] [音](呉)(漢) [訓]おに
〈キ〉
死者の霊魂。亡霊。「鬼哭きこく鬼神幽鬼
死者。あの世。「鬼籍鬼録
この世のものとも思われない恐るべき存在。化け物。「鬼気鬼道悪鬼疫鬼餓鬼邪鬼吸血鬼
冷酷な人間のたとえ。「鬼畜債鬼殺人鬼
人間わざではない。「鬼才鬼謀
〈おに〉「鬼子鬼火青鬼赤鬼
[難読]天邪鬼あまのじゃく鬼遣おにやらい鬼灯ほおずき

き【鬼】

異類異形のばけもの。おに。
その霊魂―となりて我輩の終生を苦しめん」〈織田訳・花柳春話
死者の霊魂。
「いかなる賤しき者までも、死してはりゃうとなり―となりて」〈太平記・三四〉
二十八宿の一。南方の第二宿。かにの中心部にある四星をさす。たまおのほし。たまほめぼし。鬼宿。

おに【鬼】[作品名]

人形美術家、川本喜八郎による短編の人形アニメーション作品。昭和47年(1972)制作。「今昔物語集」に着想を得た怪談。

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精選版 日本国語大辞典 「鬼」の意味・読み・例文・類語

おに【鬼】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. ( 「隠(おん)」が変化したもので、隠れて人の目に見えないものの意という ) 死者の霊魂。精霊。〔十巻本和名抄(934頃)〕
    2. 人にたたりをすると信じられていた無形の幽魂など。もののけ。幽鬼。
      1. [初出の実例]「此れ桃を用て鬼(ヲニ)を避(ふせ)ぐ縁(ことのもと)なり」(出典:日本書紀(720)神代上(水戸本訓))
    3. 想像上の怪物。仏教の羅刹(らせつ)と混同され、餓鬼、地獄の青鬼、赤鬼などになり、また、美男、美女となって人間世界に現われたりする。また、陰陽道(おんようどう)の影響で、人間の姿をとり、口は耳まで裂け、鋭い牙(きば)をもち、頭に牛の角があり、裸に虎の皮の褌をしめ、怪力をもち、性質が荒々しいものとされた。夜叉(やしゃ)。羅刹(らせつ)
      1. [初出の実例]「ある時には、風につけて知らぬ国に吹き寄せられて、鬼のやうなる物出来て殺さんとしき」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
    4. 民間の伝承では、巨人信仰と結びついたり、先住民の一部や社会の落伍者およびその子孫としての山男と考えられ、見なれない異人をさす場合がある。また、山の精霊や耕作を害し、疫病をもたらし人間を苦しめる悪霊をもさす場合がある。
    5. 修験道者などが奥地の山間部に土着した無名の者、または山窩(さんか)の類をいう。
      1. [初出の実例]「一下畑壱畝拾弐歩 鬼」(出典:紀州室郡北山村検地帳‐文祿四年(1595))
    6. ( 比喩的に用いて ) 鬼のような性質をもっている人。また、鬼の姿と類似点のある人。
      1. (イ) 荒々しくおそるべき人。
        1. [初出の実例]「鬼と名乗るは違はぬ悪者(わるもの)、梅本の鬼佐渡坊」(出典:浄瑠璃・義経千本桜(1747)四)
      2. (ロ) 物事に精魂を傾ける人。「仕事の鬼」
        1. [初出の実例]「あの少年は〈略〉、ただもうスピードの鬼になって仕舞ふのです」(出典:猟銃(1949)〈井上靖〉)
      3. (ハ) 無慈悲な人。むごい人。
        1. [初出の実例]「鬼界が嶋に鬼はなく、鬼は都に有けるぞや」(出典:浄瑠璃・平家女護島(1719)二)
      4. (ニ) 借金取り。債鬼。
        1. [初出の実例]「いつでもしゃく銭の鬼(オニ)にせめらるるなり」(出典:洒落本・十界和尚話(1798)二)
      5. (ホ) ( 常に棒を持って立っていたところから ) 江戸、日本橋の橋番。
        1. [初出の実例]「江戸のまん中に人鬼立てゐる」(出典:雑俳・柳多留‐三二(1805))
      6. (ヘ) ( むりやりに客を引いたところから ) 江戸、新吉原東河岸の安女郎。
        1. [初出の実例]「おにのうでとりにともべ屋からぬける」(出典:雑俳・柳多留‐二一(1786))
    7. ( 男色の相手の若衆をいう「おにやけ」の略 ) 男娼、陰間(かげま)の異称。
      1. [初出の実例]「十八ぐらいの鬼では後家たらず」(出典:雑俳・川傍柳(1780‐83)一)
    8. 貴人の飲食物の毒見役。
      1. [初出の実例]「殿中おにを被申」(出典:鎌倉殿中以下年中行事(1454か)正月五日)
    9. 「おにごっこ」や「かくれんぼ」などで人をつかまえたり、見つけたりする役。また、そうした遊び。
      1. [初出の実例]「鬼や鬼や、手の鳴る方へ」(出典:歌舞伎・法懸松成田利剣(1823)大詰)
    10. 紋所の名。かたおに、めんおになど。
    11. カルタばくちの一種「きんご」に用いる特殊な札。
  2. [ 2 ] 〘 接頭語 〙 他の名詞の上に付いて、勇猛、無慈悲、異形、巨大などの意を表わす。「鬼男」「鬼将軍」など。
    1. [初出の実例]「信長家中にても鬼柴田と天下の児童迄よびけるは」(出典:室町殿日記(1602頃)八)

鬼の語誌

( 1 )日本の「鬼」はモノ、シコなどと訓まれて、目に見えない悪しき霊やモノノケを意味していた。死者を意味する中国の「鬼(き)」とは本来異なる概念であったが、かなり早い時期から習合、混同され、「おに」という語の意味する範囲が拡大したと思われる。
( 2 )室町時代には、虎皮の褌に筋骨たくましい体、頭の角、といった型がつくられ、御伽草子などを通じて流布されていった。近世、近代になると、粗暴さや凶悪さを表わすための比喩として用いられることが多くなる。


き【鬼】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 死者のたましい。霊魂。亡霊。
      1. [初出の実例]「いかなる賤き者までも、死ては霊となり鬼(キ)と成て彼を是し此を非する理明らか也」(出典:太平記(14C後)三四)
      2. [その他の文献]〔礼記‐祭義〕
    2. 神としてまつられる霊魂。ひとがみ。人鬼。〔論語‐為政〕
    3. ひとがみのうち、特に定められた神位に安置する場所のないもの。〔礼記‐祭法〕
    4. 目に見えないところに居て、人間以上の不思議な力があるとされるもの。一説に、聖人の精気を神というのに対して、賢人の精気をいう。
      1. [初出の実例]「せんくもんにはおほとねりりゃうきのかたちをつとめける」(出典:浄瑠璃・暦(1685)三)
      2. [その他の文献]〔翻訳名義集‐二〕
    5. 人に害を与える悪い神。悪鬼。厲鬼(れいき)。もののけ。〔詩経‐小雅・何人斯〕
    6. ( [梵語] preta の訳語 ) 仏語。餓鬼道に落ちた亡者。いつも飢渇に追われているものから、財にめぐまれ、勢力もある、夜叉(やしゃ)、羅刹(らせつ)のようなものまでを含む。また、これを「おに」と呼ぶときは、地獄の獄卒などをさす。餓鬼。
      1. [初出の実例]「或有鬼、名鑊身。其身長大、過人両倍。無面目、手足猶如鑊脚」(出典:往生要集(984‐985)大文一)
      2. [その他の文献]〔翻訳名義集‐二〕
  2. [ 2 ] 星の名。二十八宿の南方第二宿。かに座の中心部の四星、中央に星団プレセペを含む。鬼宿。たまおのほし。たまほめぼし。
    1. [初出の実例]「南天には、よく、ちん、き、りう、せい、ちゃう、せい」(出典:浄瑠璃・唐船噺今国性爺(1722)下)

おに‐し【鬼】

  1. 〘 形容詞シク活用 〙 ( 名詞「おに(鬼)」の形容詞化 ) 鬼のようである。荒々しく恐ろしい。人情がない。おにおにし。
    1. [初出の実例]「海賊の、ひたぶるならむよりも、かの、おにしき人の、追ひ来るにやと思ふに、せむかたなし」(出典:河内本源氏(1001‐14頃)玉鬘)

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改訂新版 世界大百科事典 「鬼」の意味・わかりやすい解説

鬼 (おに)

人間に危害を加える想像上の怪物,妖怪変化。鬼と呼ばれる表象の内容は多種多様であり,時代によっても変化しているので,それをまんべんなく説明することはきわめて難しい。

 〈おに〉という語は,人に見えず隠れ住んでいることを意味する〈隠(おん)/(おぬ)〉に由来するとする説や,神を守護する巨大な精霊大人(おおひと)に由来するとする説などいくつかの説があるが,いずれもまだ推測の域を出ていない。漢字の鬼という字が〈おに〉という和訓を獲得しそれがほぼ定着したのは平安時代末期のころで,それまでは鬼の字を〈おに〉のほか〈かみ〉〈もの〉〈しこ〉と訓ずることもあった。《今昔物語集》にもまだ鬼を〈もの〉と読ませている例がみられる。

 鬼は大別して,説話や伝説,芸能,遊戯などにおいて語られ演じられるものとしての鬼と,周囲の人々から鬼もしくは鬼の子孫とみなされた人々,あるいは自分たち自身がそのように考えていた人々,つまり歴史的実在としての鬼,の2系統に区分しうる。これら想像上の鬼と歴史的実在としての鬼は互いに深く関連し合っているが,いちおう区別して考えるのがよいであろう。

 想像上の鬼のもっとも一般的な形態は,身の丈8尺以上の大男で,赤や青,黒,黄色などの肌をしており,毛むくじゃらで筋骨たくましく,縮れ毛の頭髪に2本の角を生やし,腰には虎の皮のふんどしをつけ,手には重そうな鉄棒をもち,目は一つないし二つあり,大きな口からは鋭いきばが生え出ている,という異様な姿で描き語られる。これとよく似た鬼は《今昔物語集》や《宇治拾遺物語》《古今著聞集》などに登場している。鬼の基本的属性は,人間界に姿を現して人を襲撃しあげくは食べてしまうという食人性にある。つまり人々に幸福をもたらす〈神〉の対極にいるのが〈鬼〉である。人々にとって恐怖の対象である鬼は,しかし最終的には神仏の力や人間の武勇・知恵のために,慰撫され,退治もしくは追放される運命を担わされていた。早くも《出雲国風土記》に田を耕す農民を食ってしまう目一つの鬼の話が記されており,御伽草子〈酒呑(しゆてん)童子〉の物語は,このような鬼の生態をもっともよく描き出している。鬼のすみかは一般的には,人里離れた山奥や海原遠くにある島などで,そこに鬼ヶ城があるともいう。また仏教思想や雷神信仰と結合し,死後に罪人が行く地獄の獄卒や天上界の雷神を鬼とみなす考えも広まった。鬼が出現する場所や時刻は一定していないが,町や村里のはずれの辻や橋や門など異界(他界)との接点に現れる傾向があり,時刻は夕方から夜明けまでの夜の間とする考えが広く認められている。鬼などの妖怪たちが列をなして夜行することを意味する〈百鬼夜行〉という語は,鬼の夜行性をよく示している。

 地獄の獄卒である鬼や天神となった菅原道真の霊に支配される雷神として鬼が,どのような経過を経て鬼になったかは明らかでないが,日本の鬼は,人間や神とまったく切り離された別個の存在として想像されたものではなく,互いに変換しうるものとして考えられていた。すなわち,神から鬼へ,鬼から神へといった移行,人間から鬼へ,鬼から人間への移行が可能であった。そして鬼たちの多くは,人間とその補助物である道具などがなんらかの契機によって鬼になったものである。人間が鬼になるという契機は大別して二つある。一つは過度の恨みや憎しみをいだくことである。恨みを晴らすために人に憑(つ)く生霊や死霊は普通は目に見えないが,鬼と同一視された。神仏に祈願して肉体を鬼に変えて恨みを晴らす《平家物語》剣の巻の宇治の橋姫も,この種の鬼である。いま一つの契機は年を取り過ぎることである。年老いた女は鬼女になるといい(《今昔物語集》),古ぼけて捨てられた道具は〈付喪神(つくもがみ)〉という鬼になるという(《付喪神記》)。

 ところで,鬼は人々の想像の世界の中においてのみ活動したわけではない。そのような鬼の実在を人々に確信させた背景には,鬼とみなされた人たちの存在があった。大和朝廷などの体制に従わない人々,体制から脱け出し徒党を組んで乱暴狼藉を働く山賊,農民とは異なる生業に従事する山の民や川の民,商人や工人,芸能者たち,山伏陰陽師(おんみようじ),巫女(みこ)たち。これらの人々は,時と場合に応じて鬼とされることがあった。たとえば,酒呑童子一党のイメージの背後には,山伏や山賊,田楽師たちの姿が見え隠れしている。また,鬼もしくは鬼の子孫とされ,自分たちもそのように考えてきた家や社会集団も各地に伝えられている。たとえば,大峰山中には,役行者(えんのぎようじや)に仕えたという前鬼・後鬼の子孫と伝えられる人々が住んでいる。このような人々の多くは修験や鋳物師,芸能者などであった。

 日本の鬼の本質は,凶悪な怪物という点にあるが,逆に人間に富をもたらす場合もある。その理由はいろいろと考えられるが,鬼とみなされた人々との交流,交換を通じて富を入手していたであろうということ,社会内部に生じた災厄などを鬼がその身に背負って社会の外に運び出してくれると考えていたこと,鬼は結局は敗れ去るものとされていたこと等々が,福神化した鬼の観念を支えているようである。鬼は,社会を活性化し,社会的存在としての人間の姿を浮き上がらせる人々に不可欠な存在なのであった。
(き)
執筆者:

鬼は各種の芸能に登場する。鬼が登場する儀式には民間における節分(豆まき),神社・寺院における節分祭や追儺(ついな)式が著名である。追儺式の鬼追いの儀式は修正会(しゆしようえ)にとり入れられ,竜天(りようてん),毘沙門天とともに舞を舞い,竜天や参詣人に追いはらわれることで悪魔ばらいが完了し,吉祥を生ずる行事となっている。現在,愛知県豊橋市の神明社や岡崎市の滝山(たきさん)寺などに伝承されている鬼祭は,追儺の形式をとった修正会の行事と田楽・田遊(たあそび)などの行事が結びついたものである。滝山寺の旧正月7日の鬼祭は,火祭とも呼ばれ,田遊の後に鬼の面をかぶった3人(祖父面・祖母面・孫鬼)が,数十人の松明を持った若者と共に本殿の縁側を踊りまわる。

 一方霊力によって悪魔をはらう鬼もある。このような鬼が登場してくるものとして愛知県北設楽郡の村々で行われている花祭がある。この祭りには榊鬼(さかきおに)が登場する。榊鬼は,祭りの当日村内の家々をめぐって悪霊をはらい,病人の悪いところを踏み,舞処(まいと)では反閇(へんばい)と称する足踏みを中心とした舞を演じて,悪霊を踏み鎮める。その他,長野県下伊那郡阿南町新野(にいの)の雪祭や同郡天竜村坂部の冬祭などにも鬼の役が出現する演目があり,まさかり・棒などの採物(とりもの)を打ち合わせて悪霊を鎮め,禰宜(ねぎ)との問答に言い負かされて退散する演出がなされている。また,佐渡の芸能として有名なものに鬼太鼓(おんでこ)がある。鬼が勇壮に舞いながら大太鼓を打ち,襲いかかる獅子をはらいのけるしぐさは,悪魔をはらい豊年祈願の意味をもつとされている。

 地獄で亡者を責める役柄の鬼は,千葉県山武(さんむ)郡横芝光町の広済寺で行われる鬼来迎(きらいごう)に登場するが,この鬼に責めてもらった病弱な者は,鬼の持つ霊力によって健康になるという信仰もある。地獄の鬼は京都市の壬生(みぶ)寺に伝承されている大念仏狂言の《賽の河原》《餓鬼角力(がきずもう)》にもみられる。この他,鬼は田楽や能・狂言にも登場する。1349年(正平4・貞和5),四条河原で行われた有名な桟敷崩れの田楽に,鬼の仮面を付けた者が登場していたことが《太平記》に,また《落書露顕》には,4匹の鬼が出る田楽能が行われたことが記されている。しかし,この鬼能がどのようなものであったかは明らかでない。能や狂言には,鬼物という分類項目があるほど鬼がシテを演じる演目が多い。世阿弥は《風姿花伝》の中で,能における鬼には怨霊・憑物(つきもの)の鬼(《葵上》など)と地獄の鬼(《朝比奈》など)の2系列があると記している。鬼能は,能組の中で五番目物であり,代表曲としては《鵜飼》《野守(のもり)》《紅葉狩》《土蜘蛛(つちぐも)》《葵上》《道成寺》などがある。狂言の鬼は,武悪(ぶあく)という面をかけ,一見恐ろしい外形にもかかわらず,性格も力も弱いのが笑いの対象となる。狂言でも地獄の鬼を扱った《鬼の継子(おにのままこ)》《八尾(やお)》などと,蓬萊の島からやって来た鬼を扱った《節分》などがある。いずれも悪鬼ではなく,人間的な性質を持っている。また,歌舞伎や浄瑠璃で扱われている超人的な力を持つ鬼には,〈茨木(いばらぎ)童子〉〈酒呑童子〉などがある。
執筆者:

〈おに〉の観念に仏教が及ぼした影響は小さくない。仏教では〈死者〉(プレータpreta)の漢訳語に〈鬼〉の字を使っている。ただし,この死者は六道輪廻(りんね)のうちにあり,絶えず飢えているので,〈餓鬼〉という熟語で呼ばれている。餓鬼は細いのどや膨張した腹をもつ気味悪い存在であるが,人間に悪事をふるうほどの力はない。幼児を取って食うという女神ハーリティーHāritīが鬼子母神と漢訳されている。この女神はのちに幼児の保護者となるが,改悛前の恐ろしい姿が鬼という言葉と結びつけられている。《長阿含経》第12〈大会経〉ではヤクシャYakṣa(薬叉,夜叉)が鬼と同類視されている。ヤクシャは森などにいて,善事もなすが,悪事もなす。《大方等大集経》第49〈一切鬼神集会品〉では天,竜,夜叉,羅刹,阿修羅,鳩槃荼(くはんだ)Kumbhāṇḍa,餓鬼,毗舎遮(びしやしや)Piśācaなどがあげられ,どのようなものが鬼と考えられていたかが察せられる。上記のうち天(神)以外のものはいわゆるデーモンであるが,とりわけ夜叉や羅刹は人をとらえたり,食ったりする。〈おに〉の絵画的表現にも仏教の影響が考えられる。〈おに〉には角があるとされるが,仏教の地獄図には獄卒として牛頭(ごず)がいる。これは牛頭人身で,生きていたとき牛を殺したものを呵責する。ベゼクリクの地獄図に2本の角をもった人身の牛頭が描かれている。〈おに〉は虎の皮のふんどしをつけ,金棒を持つとされるが,インドのクシャーナ朝の貨幣に描かれているシバ神は,あるものは腕にライオンの皮をぶらさげ,あるものは棍棒を持つ。シバ神はヒンドゥー神話においては決してデーモンではないが,ベーダの暴風神ルドラや雷霆神インドラに通ずる勇猛怪力の神で,宇宙の破壊をつかさどり,異名の一つに〈(虎の)毛皮をつけるもの〉がある。ヒンドゥー教の神話や美術には多数の獣頭人身,人頭獣身の神々が存在するが,その多くはオリエントやヘレニズム起源と思われ(上記貨幣のシバ神像にはヘラクレスのイメージが考えられる),日本の〈おに〉のイメージにもそれらのイメージが混然となって及んでいると考えられる。
地獄
執筆者:


鬼 (き)
guǐ

中国において,死者の霊魂を意味する。人間は陽気の霊で精神をつかさどる魂と,陰気の霊で肉体をつかさどる魄(はく)との二つの神霊をもつが,死後,魂は天上に昇って神となり,魄は地上にとどまって鬼となると考えられた。鬼は神とともに超自然的な力を有し,生者に禍福をもたらす霊的な存在であるが,特に天寿を全うすることができずに横死した人間の鬼は,強い霊力を有し,生者に憑依(ひようい)し祟(たたり)をなす悪鬼となるとして恐れられた。このほか,山川をはじめとする自然界に潜む魑魅魍魎(ちみもうりよう)や物の怪といった神秘的存在も,広い意味での鬼の範疇(はんちゆう)に属する。ちなみに,中国古代の神話的地理書である《山海経(せんがいきよう)》には,これらの鬼の出入りする鬼門と悪鬼をとらえて虎に食わせる神荼(しんと)・鬱塁(うつるい)2神に関する記事が見える。また,仏教の中国伝来以降は,餓鬼,羅刹(らせつ),夜叉(やしや)など多種の鬼がもたらされて,鬼の概念が拡張され,道教や民間信仰などとも習合してさまざまな習俗,信仰を生んだ。
魂魄
執筆者:

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普及版 字通 「鬼」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 10画

[字音]
[字訓] おに

[説文解字]
[甲骨文]
[金文]

[字形] 象形
鬼の形。人鬼をいう。〔説文〕九上に「人の歸するを鬼と爲す。人に從ひ、鬼頭に象る。鬼は陰气す。厶に從ふ」とあり、厶(し)を陰気を示すものとするが、古くは鬼頭のものの踞する形に作り、厶は後に加えたもの。字は畏と形近く、畏忌すべきものを意味した。

[訓義]
1. おに、ひとがみ、遊魂。
2. 鬼神、もののけ、老物の精。

[古辞書の訓]
〔名義抄〕鬼 オニ/鬼 ガキ/瘧鬼 エヤミノオニ/鬼 アシキモノ/窮鬼 イキスダマ

[部首]
〔説文〕に魂・魄・魃・醜など、また〔新附〕に(魔)・魘など、合わせて十九字を属する。〔玉〕に六十九字を属するが、訓義を加えないものがかなり多い。

[声系]
〔説文〕に鬼声として瑰・・餽・槐・・傀・・嵬・隗・・魁など十三字を収める。その声義をとるものには、おおむね魁偉の意がある。

[熟語]
鬼衣・鬼域・鬼・鬼飲・鬼雨・鬼火・鬼禍・鬼怪・鬼黠・鬼瞰・鬼眼・鬼気・鬼教・鬼区・鬼臉・鬼幻・鬼工・鬼功・鬼哭・鬼魂・鬼才・鬼妻・鬼市・鬼子・鬼事・鬼社・鬼手・鬼妾・鬼神・鬼信・鬼籍・鬼設・鬼胎・鬼中・鬼誅・鬼廷・鬼奴・鬼灯・鬼頭・鬼道・鬼婆・鬼伯・鬼罰・鬼魅・鬼票・鬼病・鬼巫・鬼斧・鬼物・鬼兵・鬼面・鬼門・鬼雄・鬼幽・鬼・鬼録・鬼・鬼話
[下接語]
悪鬼・暗鬼・畏鬼・陰鬼・役鬼・疫鬼・鬼・餓鬼・怪鬼・奇鬼・瘧鬼・旧鬼・窮鬼・群鬼・虎鬼・紅鬼・債鬼・山鬼・邪鬼・酒鬼・尚鬼・殤鬼・新鬼・人鬼・青鬼・打鬼・痴鬼・逐鬼・百鬼・貧鬼・巫鬼・物鬼・魔鬼・冥鬼・野鬼・幽鬼・鬼・霊鬼

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鬼」の意味・わかりやすい解説

鬼(おに)
おに

人間生活を脅かす醜悪怪力の想像上の妖怪(ようかい)。今日の私たちが空想に描いている地獄の赤鬼青鬼などの共通像は、額に角(つの)をもち、口には牙(きば)、腰に虎(とら)の皮の褌(ふんどし)をまとって非常に荒々しい性格とされているが、これは古来からの姿ではなく、仏教や陰陽道(おんみょうどう)の悪鬼夜叉(あっきやしゃ)や羅刹(らせつ)などの影響で、徐々に変化してきたものである。『往生要集(おうじょうようしゅう)』の思想普及で、地獄の鬼も絵解きとともに画像化された。民間信仰の風神や雷神なども、同じイメージにとらえられている場合が多い。「鬼」の字義には、本来は死者の魂の意味があり、語源的にも十巻本『和名抄(わみょうしょう)』には、「……或説云於邇者隠者之訛也、鬼物隠而不欲顕形故以称也」(或(ある)説ニ云フ於邇(おに)ハ隠(おん)者ノ訛(なまり)ナリ。鬼物ハ隠レテ形ヲ顕(あらわ)スコトヲ欲セザルノ故ヲ以(もっ)テノ称ナリ)とあって、隠れて人間にみえない精霊と考えられていたから、とする説もある。時代的にも種々の観念で把握されている。『日本書紀』神代・景行の条では、皇威に従わぬ種族を、邪鬼(あしきもの)、邪神(あしきかみ)、姦(かだま)しき鬼と記しているし、欽明(きんめい)天皇条では人にたたる幽鬼になっている。『万葉集』では鬼を醜(しこ)と訓ずる歌もあり、モノ(物の怪(もののけ)、悪霊)とする意もある。『出雲国風土記(いずものくにふどき)』大原郡条の一つ目の鬼は、佃(たつく)る農夫を食べてしまうという、他界の畏怖(いふ)すべき超人者に考えられている。上代文学に表れたこれらの性格を総合してみると、恐るべき他界者の意義を中心に、(1)異形醜悪、(2)超人超能力者、(3)邪神、(4)亡者、(5)異族など、およそ後世の広い意味のすべてを胚胎(はいたい)していることになる。

 里の住人が、人跡未踏の奥山の世界を恐れ、その不思議な現象に鬼の超人性を感じたのが、中世以降の仏教思想の庶民化とともに一般に普及した。これが今日に固定した鬼のイメージであろう。この他界にあるモノを調伏(ちょうぶく)するために、聖(ひじり)や修験者(しゅげんじゃ)たちが、山に登り修法を勤めたのが古代後期である。山伏(やまぶし)の祖たる役行者(えんのぎょうじゃ)の鬼退治伝説が語られ、その崇(あが)められた像には前鬼後鬼(ぜんきごき)が伴われるようになった。平安期以降では、節分や修正会(しゅしょうえ)の結願に追儺(ついな)が、「鬼やらい」として行われた。『蜻蛉日記(かげろうにっき)』に、「儺(な)やらふ儺やらふ」と騒いでいる情景が描かれている。児童遊戯の「鬼ごっこ」は、鬼やらいの作法の模倣の伝承である。

 災厄をもたらす鬼の目を豆でつぶすという俗信もあるが、幸福をもたらす鬼の例も少なくない。民間に訪れるまれ人神にも鬼のイメージが重なってくるようになる。神戸市長田(ながた)神社や京都吉田神社の追儺式など、おどけた鬼や善玉の鬼も多い。春の民俗儀礼における秋田のなまはげや岩手のスネカなど、小正月(こしょうがつ)に訪れる鬼は、子供たちには恐れられるが、すべてその年の実りのための神霊の具象化である。それらの鬼が神事芸の舞台にも登場して、郷社祭礼の主人公を務めている場合もある。福井県鯖江(さばえ)市の親子鬼は、自分で豆もまくし、姫路神社では鬼が厄払いをする。能登地方の寺々では、山ではなく海から鬼が訪れて鎮魂をすると信仰している所が多い。これらの善玉の鬼は精霊としてのそれを考えたものである。

 また、現世に恨みを残して無残な死を遂げた御霊(ごりょう)を鬼とみる地方もあり、これを鎮める供養(くよう)の民俗行事もある。鬼は疫病神としても恐れられた。平安京で行われた道饗祭(みちあえのまつり)や四角四境祭(しかくしきょうさい)は、それら鬼の侵入を防ぐ行事で、農村の境で塞(さい)の神によって外からくる疫病を防いだ民俗信仰が陰陽道と習合したものである。この種の災厄を、御霊の祟(たた)りとし鬼の所業と定めたのは陰陽道である。その影響もあって、中世の能楽の世界でも怨霊(おんりょう)や冥土(めいど)の鬼に定義づけられたものが多い。

 今日の悪玉としての鬼のイメージの完成は、多くの英雄叙事伝説のなかから固定してきたといえよう。治安の乱れで横行した山賊とか、奥山に土着してしまった山窩(さんか)なども、姿の見えぬ一般人には混同されて、山塞(さんさい)に立てこもる鬼とか化け物(天狗(てんぐ)などもその一類)として、種々の話題を提供する。坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)が鈴鹿(すずか)山の鬼女と闘った伝説をはじめ、渡辺綱(つな)が退治した羅生門(らしょうもん)の鬼、大江山で退治される酒呑童子(しゅてんどうじ)も、婦人をかどわかしたり金品を襲う山賊である。謡曲『田村』『羅生門』『大江山』に脚色され、中世ごろから人口に膾炙(かいしゃ)した鬼たちであろうが、すでに山奥に住むこれら悪玉のイメージは『今昔物語集』などの説話の世界でも語られていた。謡曲『紅葉狩(もみじがり)』は信州戸隠(とがくし)山の鬼女であるし、『鉄輪(かなわ)』の後シテ京女の生霊も『葵上(あおいのうえ)』『道成寺』に同じく嫉妬(しっと)のあまり鬼女と化している。これらの伝説の芸能化による主人公ばかりでなく、昔話の世界にも同じイメージの鬼は多い。『宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)』で爺(じじい)の瘤(こぶ)を預かるのは、昔話「瘤取爺」の類型。伝説と同じく昔話でも鬼退治はその主人公の偉業礼賛の重要なモチーフで、「桃太郎」「一寸法師」など、だれでも知っている民話のなかに、日本人の代表的な鬼の固定観念を定めた。しかし昔話にも恐ろしい鬼ばかりでなく幸福をもたらす類もある。山姥(やまうば)や天狗なども、鬼に同じく善悪両様に考えねばならぬ場合が多く、その点でも他界の精霊と邪神の性格を、民俗信仰の世界に投影して、鬼の歴史を吟味すべきであろう。

[渡邊昭五]

『「鬼の話」(『折口信夫全集3』所収・1955・中央公論社)』『「山の人生」(『定本柳田国男集4』所収・1965・筑摩書房)』『近藤喜博著『日本の鬼』(1966・桜楓社)』『馬場あき子著『鬼の研究』(1971・三一書房)』


鬼(き)

目に見えぬ霊魂とか死人の魂から転じて、人間を苦しめる悪神や妖怪(ようかい)などを含めていう。日本でいうオニと同義であるが、中国の信仰では、人の死によって心情や思考をつかさどる魂に対して、肉体をつかさどる魄(はく)が鬼(き)である。魂は天上にて神霊となり、天上に昇れぬ形骸(けいがい)の主体である魄が鬼(き)と化す。横死したり無縁で祀(まつ)る人のない霊は、幽鬼として祟(たた)りをなす。日本に輸入された悪霊や怪物としてのオニは、この祟りの鬼(き)からきたものである。また、わが国の御霊(ごりょう)信仰にも多分の影響がある。鬼(き)には種々あって、溺死(できし)者の霊で自己の再生のために人を水死させ祟りをする水鬼(すいき)や、虎(とら)に食われた虎鬼(こき)、獄で斬首(ざんしゅ)された首なし鬼(き)、人間を病気にさせたり寝室に侵入して祟る餓鬼(がき)など、多くの種類がある。これらの祟りをする鬼(き)の恐れるものには、経書、婚書、神廟(しんびょう)、宝剣、尿、唾液(だえき)などがある。

 鬼(き)の祟りを防ぐために、盂蘭盆(うらぼん)に灯(ひ)を掲げて、路頭に浮遊したり迷うのを防ぐ。中国東北部では、正月13日から16日にかけて油に火を注ぎ往生させるという民俗行事がある。日本の鬼(き)は中国の影響を受けているが、『日本書紀』などに黄泉(よみ)の鬼(き)としての醜女(しこめ)が登場している。上代では顔の醜いところから鬼(き)が発している。追儺(ついな)などの民俗行事に追われるオニも、中国の邪霊の影響から多様な意味を生じたものである。

[渡邊昭五]

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百科事典マイペディア 「鬼」の意味・わかりやすい解説

鬼【おに】

人間に危害を加える想像上の怪物。中国の(き)の観念とは異なり,古代日本では人を食う異形の怪物の意。仏教の影響を受けてからは,餓鬼(がき),疫鬼(えきき),地獄の赤鬼や青鬼,羅生門で渡辺綱に腕を切られた鬼,こぶとり爺の鬼などが出現した。のち裸の人間で牛の角とトラの牙(きば)をもちトラの皮の腰布をした姿に描かれた。これは丑寅(うしとら)の方角を鬼門とし鬼が集まるという陰陽道(おんみょうどう)の影響で牛とトラに関係づけられたもの。ほかに酒呑(しゅてん)童子,茨木童子,戸隠山や鈴鹿山の鬼などの山賊的な鬼,各地に鬼の足跡の伝説を残す巨人伝説の鬼などがある。
→関連項目鬼神山人

鬼【き】

中国で死者の霊魂,亡霊をいう。霊魂のうち,魂は天上に昇って神となり,魄は地上に留まって鬼となるとされる。善徳ある人の霊魂は福を与え神格化されるのに対し,横死するか,あるいはまつる者のない無縁の霊魂は,人にとりつき祟(たた)ると恐れられた。民間では後者の意味の場合が多い。鬼は経書や剣,廟,桃枝などを恐れるので,防ぐにはこれらが用いられる。陰陽道では二十八宿の一つ(鬼宿)で,鬼星のある方角を鬼門とする。日本の(おに)とは異なる。
→関連項目鬼神

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鬼」の意味・わかりやすい解説


おに

空想上の霊怪。醜悪な形相と自在な怪力によって人畜に危害を与える怪物と考えられた。鬼の観念は,仏教における鬼神夜叉,餓鬼,地獄の閻魔王 (えんまおう) の配下などを具体化したものといえる。日本における鬼は『古事記』のなかの黄泉醜女 (よもつしこめ) という隠形の鬼に始り,時代や思想の流れとともに変化していった。一般に鬼が人畜に与える危害は,陰陽道,仏道修行,経典によって退けられると考えられている。一方,これら観念上の鬼とは異質なオニが民俗上信じられている。これは山人 (やまびと) ,大人 (おおひと) などと同じ性格のオニが山中に住むというもの。「鬼の田」や「鬼の足跡」と呼ばれる窪地があったり,山中のオニと親しんだ村人の昔話が伝えられている。村人が山中に住む人々と接触して得た知識によって,オニを山の精霊,荒ぶる神を代表するものという思想が生れたと考えられる。



gui

中国の精霊崇拝の対象で,鬼神ともいう。太古から,人間の霊魂は死後も存続し,また人間に生れ変るが,人間の,特に子孫に祭られない霊魂は遊鬼となってさまざまな災害を起すと信じられ,これらの霊魂をなだめる祭儀が発達していた。鬼の字源には諸説があり,仮面をつけて舞う人の形という説もある。人間の死霊と類比して,山,川その他怪異な作用をするものも鬼と信じられた。民間信仰では,幽界組織,鬼の種類などを複雑にするとともに,病気,家運などのために鬼を祭る風習が発達し,さらに道教,仏教と習合して,追儺 (ついな) ,盂蘭盆会 (うらぼんえ) などの年中行事も発達した。 (→〈おに〉)

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「鬼」の解説

おに

想像上の妖怪。
赤や青,黄,黒などの肌をした筋骨たくましい大男で,ちぢれ毛の頭髪に2本の角があり,口にはするどい牙(きば)がはえる。虎の皮のふんどしをつけ鉄棒をもった姿で,人を食うとされる。また死者の霊や地霊,さらには体制にしたがわない実在の人をしめすなど,多面的な性格をもつ。「おに」の語はかくれて人の目にはみえない「隠(おん)」が変化したものとの説がある。地獄の鬼や酒呑(しゅてん)童子などがなじみぶかい。

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デジタル大辞泉プラス 「鬼」の解説

今邑彩のホラー短編集。2008年刊行。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【貴船の本地】より

…本三位中将は帝の宣旨により,花の都のみめよき女を迎えるが,心にかなう人がなく,みな難をつけて返し,その数は3年間に560人に及んだ。帝の御前で扇くらべの催しのおり,扇に描かれた女房の絵を見て恋に陥り,その絵師を尋ねて女房に逢おうと決心し,二相通力(つうりき)の大殿(おおいとの)に参り,鞍馬の奥にある鬼国(きこく)の大王の乙娘(おとむすめ)で13歳の〈こんつ女〉であることを知らされる。中将は清水寺,太秦寺,伊勢大神宮に参籠し祈誓をかけ,初瀬観音の夢想を得て鞍馬の毘沙門にこもり,三七日へて告げに任せて正面にこもっていた〈鬼の娘〉に逢い,妻に所望の由を申し入れ,僧正が谷の池の丑寅にある岩屋から鬼国へ赴く。…

【節分】より

…大晦日,1月6日,1月14日とともに年越しの日とされ,これらとの混交もみられるが,現在の節分行事はほぼ全国的に,いり豆をまく追儺(ついな)の行事と門口にヤキカガシ(ヤイカガシ)を掲げる風習を行う点で共通している。社寺でも民間でも盛んに行われる豆まきの唱え言は土地によって各種あるが,〈鬼は外,福は内〉というのが一般で,訪れる邪鬼をはらおうとするものと解されている。豆で身体を撫でて捨てる風もあり,これは災厄の祓と考えられよう。…

【追儺】より

…悪鬼を払い,疫癘(えきれい)を除いて,新年を迎える儀式。宮廷年中行事の一つ。…

【毒味】より

…また,元日の屠蘇(とそ)を進めるにあたっては未婚の少女の中から選ばれた薬子(くすりこ∥くすこ)が試飲の役にあたった。中世には武家にもこの風がとり入れられ,試飲,試食を〈鬼〉〈鬼食い〉〈鬼飲み〉といい,それを行うことを〈鬼をする〉と呼んだ。《今川大双紙》には,貴人の前で飯の鬼をする場合,飯わんのふたをとり,盛られた飯の上の部分ではなく,左側をとるものだという作法が説かれている。…

【渡辺綱】より

源頼光の有力な郎党で,坂田公時,平貞道,平季武とともに頼光四天王とよばれる。【大塚 章】
[説話と伝説]
 《古今著聞集》巻九に源頼光をねらう鬼同丸という究竟の大童(おおわらわ)を討つ話があり,屋代本《平家物語》剣巻には次のような話がある。綱が一条堀河の戻橋で美女にあい同道すると,五条の渡しで鬼に変じた。…

【魂魄】より

…魂は精神,魄は肉体をつかさどる神霊であるが,一般に精神をつかさどる魂によって人間の神霊を表す。人が死ぬと,魂は天上に昇って神となり,魄は地上に止まって鬼となるが,特に天寿を全うせずに横死したものの鬼は強いエネルギーをもち,人間にたたる悪鬼になるとして恐れられた。人の死後間もなく,屋上から死者の魂を呼びもどす招魂や鎮魂の習俗儀礼は,こうした観念から生まれたものである。…

※「鬼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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