なよたけ

改訂新版 世界大百科事典 「なよたけ」の意味・わかりやすい解説

なよたけ

戯曲。5幕9場。加藤道夫作。1946年5月から10月の《三田文学》に連載発表。51年6月東京新橋演舞場で尾上菊五郎劇団により,一部カットし《なよたけ抄》として初演。おもな配役は,石ノ上ノ文麻呂を9世市川海老蔵(のちの11世団十郎),なよたけを7世尾上梅幸,綾麻呂を4世市川男女蔵(のちの3世左団次),大伴ノ御行を7世坂東彦三郎(のちの17世市村羽左衛門),讃岐ノ造麻呂を2世河原崎権十郎ほか。完全上演されたのは,55年9月大阪毎日会館で芥川比呂志演出の文学座が最初。おもな配役は,綾麻呂を三津田健,文麻呂を仲谷昇,清原ノ秀臣を稲垣昭三,御行を中村伸郎・芥川比呂志,造麻呂を北村和夫,なよたけを松下砂稚子ほか。《竹取物語》を素材とし,ジロードゥーの《オンディーヌ》の影響によって創作したという。平安の中ごろ,石ノ上ノ文麻呂は,友人の清原ノ臣から竹籠づくりの讃岐ノ造麻呂の娘で天女のように美しいなよたけのことを聞く。2人は竹林を訪れ童たちと無邪気に歌い踊るなよたけを見る。文麻呂は狂おしい恋におちいってしまう。色好みの大伴ノ御行がなよたけを強引に迎えにくる。文麻呂はなよたけを奪い恋を打ち明けるが,彼女は童たちの呼び声で姿を消してしまう。文麻呂は都を引きはらい,なよたけを探しまわる。やがて現れた彼女と激しい恋情をかわすが,なよたけは月からの迎えが来たといって息絶える。文麻呂は醜い都を離れ,左遷されて東国にいる父綾麻呂のもとへ赴く。2人は東国の大自然を讃え,気高く厳然とそびえる富士山を仰いで立つ。古典的素材のなかに現代感覚を生かし,幻想現実を巧みに織りまぜ,格調の高い浪漫詩劇となっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「なよたけ」の意味・わかりやすい解説

なよたけ

加藤道夫の戯曲。五幕九場。1946年(昭和21)5~11月『三田(みた)文学』に発表。51年6月尾上(おのえ)菊五郎劇団が『なよたけ抄』として部分上演。55年10月文学座が芥川比呂志(あくたがわひろし)演出により初演。平安中期、大納言大伴御行(だいなごんおおとものみゆき)の奸策(かんさく)によって都を追われる父を見送った石上文麻呂(いそのかみふみまろ)は、竹取の翁(おきな)の娘なよたけを見て、心を奪われる。文麻呂は大納言がなよたけに懸想(けそう)しているのを知り、父の汚名を晴らそうとする。葵(あおい)祭の日、文麻呂は狂気のように群衆に大納言の非道を訴えるが、かえって大納言の巧みな弁舌によって群衆の嘲罵(ちょうば)を浴びる。やがて幻想のなかで文麻呂はなよたけと結ばれるが、なよたけは月からの使者がくることを告げ、文麻呂の腕のなかで息絶える。文麻呂は父のいる東国へ旅立つ。ジロドゥーの『オンディーヌ』に想を得たといわれ、戦時下の青春の苦悩の軌跡を、和文脈の格調高い現代語によって描いた現代詩劇の傑作。作者はこの戯曲を遺書として5か月で書き上げ、友人に託して出征した。

[大島 勉]

『『なよたけ』(1952・未来社・てすぴす叢書)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「なよたけ」の意味・わかりやすい解説

なよたけ

加藤道夫の戯曲。 1946年発表。 51年6月菊五郎劇団が『なよたけ抄』として省略版を初演。完全上演は 55年。『竹取物語』に題材を取り,神秘的な少女と近代的自我に執着する青年を中心に,詩人の誕生を告げる精神の契機が語られ,秀麗な劇的世界を完成した昭和戯曲の傑作である。

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