能の用語で主として謡(うたい)のリズムを規制する法則をいう。謡は原則として8個の拍で1句を構成しているため,〈八拍子(やつびようし)〉とも呼ばれる。謡には原則として拍の位置が規定されている〈拍子合(ひようしあい)〉と,規定されていない〈拍子不合(ひようしあわず)〉とがあるが,拍子に合う謡はすべて,1句をこの八拍子に割り付ける。そのリズム型に平(ひら)ノリ,中(ちゆう)ノリ,大(おお)ノリの3種がある。平ノリは最も多く用いられるが,七五調の文章を基本としておりその基準句は図の(1)のように配列される。うたい出しは8拍半,第1・4・7の3字を引いて(引きのばして)2字分とし(実際には増シ節以外は引かず,前後の音を調節してうたう),12文字を8拍に当てはめている。中ノリは3種の中では最も活動的なリズム型で,武士の霊が修羅の苦しみや戦いの様子を物語るところや,怨霊が相手を責める所などに用いられるが,前者の例が非常に多いことから〈修羅ノリ〉とも呼ばれる。その基準句は図の(2)のように配列され,第1拍に当ててうたい出し,2文字を1拍に当てる。平ノリほど使用範囲は広くなく,多くは1曲の終り近くにあるほか,演目によってはないものもある。大ノリは3種の中では最も舞踊的なリズム型で,舞事(まいごと)の前後や,神,鬼,精などの登場部分などに用いられる。その基準句は図の(3)のように配列され,第2拍に当ててうたい出し,1文字を1拍に当てる。
譜例のように,8個の拍で1句を構成するのを〈本地(ほんじ)〉と呼ぶが,字数のごく少ない句とか,とくにリズム上の技巧を加えた句などでは,8拍以外の拍で,句を構成する例もある。そうした変則のものには,4拍から成る〈トリ〉や,6拍から成る〈片地〉,2拍から成る〈オクリ〉などがあるが,トリがよく用いられる以外はあまり用例は多くない。また,本地でも基準句でなく,字余りや字足らずの句では,うたい出しを早くしたり遅くしたりして調整する。たとえば,5字・5字から成る平ノリの句は,図の(4)のように第1拍まで前句を引き,第2拍からうたい出す。
このようにうたい出しの位置は句によってさまざまなので,次のように名称をつけている。第8拍うたい出しの〈半声の間〉,8拍半うたい出しの〈本間〉,1拍うたい出しの〈当(あた)ルヤの間〉,1拍半うたい出しの〈ヤの間〉,2拍うたい出しの〈ヤアの間〉,2拍半うたい出しの〈ヤヲの間〉,3拍うたい出しの〈当ルヤヲハの間〉,3拍半うたい出しの〈ヤヲハの間〉,4拍うたい出しの〈長キヤヲハの間〉。これらの名称は,中ノリや大ノリの場合でも同じように用いられる。
→能
執筆者:松本 雍
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…たとえば,現在の謡(うたい)にあるヨワ(弱)吟,ツヨ(強)吟という二つの吟型(ぎんがた)が分化したのは江戸時代17世紀末のことだが,その音階はその後も変化を続け,現在の音階に固定したのは江戸最末期から明治時代にかけてである。また詩型とリズムの関係を規制する地拍子も,現在の形式となったのは明治時代以降である。しかしこうした変化の一方,世阿弥のころから少しも変わらない面もある。…
…そして拍子合の謡はさらに平ノリ,中ノリ,大ノリの3種の別があり,実際の〈拍子当り〉は,各句の字数や節付けによって,さまざまの形がある。このリズム法を地拍子というが,実演に際しては高度なくふうが加えられる。囃子については,笛には謡の地拍子にやや似た事柄があるものの,地拍子とはいわず,また変化の仕方もはるかに少ない。…
…喜多流の謡をたしなみ,川崎九淵について葛野流(かどのりゆう)大鼓を学んだ。研究家としては囃子に精通し,地拍子の理論を確立し,鼓の胴に造詣(ぞうけい)が深かった。評論家として《時事新報》《朝日新聞》ほか諸雑誌に能評・時評を執筆,池内(いけのうち)信嘉,坂元雪鳥と並び称された。…
※「地拍子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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