ハンチントン病(読み)はんちんとんびょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハンチントン病」の意味・わかりやすい解説

ハンチントン病
はんちんとんびょう

基底核大脳皮質病変のある遺伝性のまれな疾患で、成人期以降に舞踏病運動と知能低下とをおこすのが特徴である。1872年にアメリカの医師ハンチントンGeorge Summer Huntington(1851―1916)が、祖父および父と3代の医師で観察したこの病気の家族の症状を詳細に記述した。ハンチントン舞踏病といわれていた。病理解剖によると、基底核の尾状核と被殻、および大脳皮質に著明萎縮(いしゅく)がみられる。また脳を生化学的に検査すると、基底核の淡蒼(たんそう)球と中脳の黒質のγ(ガンマ)‐アミノ酪酸が特異的に減少している。発病年齢は40歳前後以降であり、常染色体顕性の遺伝性疾患で、男女差はない。医療費助成対象疾病(指定難病)に指定されている。

 舞踏病様の不随意運動と精神知能低下の二大症状は、かならずしも同時期に発現するとは限らず、普通は不随意運動が先行する。舞踏病様運動は唐突におこり、不規則に繰り返し、速い。精神的に緊張したり、随意運動をしようとすると不随意運動がおこり、目的とする運動が妨げられる。多くは顔面または上肢に潜在性に現れ、顔をしかめたり、肩をすくめたりするが、だんだんひどくなり、しだいに全身に及ぶ。発語の際に口角がひきつれたり、眉間(みけん)にしわが寄ったりしてしかめ面のようになり、ついには会話も著しく障害される。歩行時には足を引きずったり、体をくねらせたり奇妙なしぐさを示す。これは一見、踊るようにみえるので舞踏病様運動とよばれる。進行すると、不随意運動によって歩行が困難となり、しばしば転倒し、起立もできなくなって日常生活動作に著しい支障を生ずるようになる。

 精神症状としては、抑うつ人格の変化、興奮などがみられ、自殺を図ることも少なくない。また、計算や記憶も障害され、判断力や理解力は低下し、ついには人格の維持が困難になる。多くは10~15年前後の経過で死亡するが、直接の死因としては感染症が多い。

 特別な治療法はない。不随意運動に対しては、レセルピン、フェノチアジン系およびブチロフェノン系の薬が使われる。精神知能障害に対する治療法は現在のところない。両親が60歳以上になっても発病しないときには、その子供の発病はまずない。このほか、小児には、筋硬直が強くて不随意運動の少ない若年型のハンチントン病がある。

[海老原進一郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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