二つの異なる導体を接触させたとき,両者の間に生ずる電位差。この現象はA.ボルタによって発見されたので,ボルタ効果Volta effectと呼ばれる。接触前には二つの導体A,Bの電子に対する化学ポテンシャルは一般に異なった値をとる。しかし,A,Bが接触すると両者の間で電子が自由に行き来できるようになるから,その結果,接触後の化学ポテンシャルは一致しなければならない。このとき導体A,Bの表面のすぐ外側での点X,Yにおける電子のポテンシャルをそれぞれVX,VYとすれば,
VX=ΦA+μ
VY=ΦB+μ
である。ただし,ΦA,ΦBは導体A,Bの仕事関数,μは接触後の化学ポテンシャルである。上の関係から,XとY間の電位差,すなわちA,Bの接触電位差VABは,-eを電子の電荷として,
VAB=(VX-VY)/(-e)=(ΦA-ΦB)/(-e)
と与えられることがわかる。すなわち,接触電位差は仕事関数の差を,電子の電荷で割ったものに等しい。導体A,B間,B,C間,C,A間の接触電位差を,それぞれVAB,VBC,VCAとすれば,
VAB=VBC+VCA
の関係が成り立つ。これをボルタの法則と呼ぶ。接触電位差の原因は,仕事関数の小さい導体の表面から,大きい導体の表面へと電子が移ることによっている。したがって二つの導体を接触後また離すと,それぞれが正,負に帯電することになる。このようにして生ずる帯電を接触電気contact electricityという。
接触電位差の測定は,いろいろな実験法によって行うことができる。例えばケルビン法では,導体A,Bを平行板コンデンサーの両極とし,一方の極板を振動させる。このとき両極間に流れる交流電流⊿Iは,極板の振動による電気容量の変化を⊿C,両極間に外から加える電位差をV,接触電位差をVABとして,
⊿I=⊿C(VAB+V)
で与えられる。Vをゆっくり変化させて,⊿I=0になったとすると,そこでのVの値から接触電位差を決めることができる。
半導体と金属の接触面,あるいはヘテロ接合の界面には,上に述べた原因によって,電子または正孔のポテンシャル障壁ができる。接触前の半導体表面で,バンド構造におけるエネルギーバンドの曲りがないなら,ポテンシャル障壁の高さは仕事関数の差から決まる接触電位差に等しい。しかし,実際には表面の格子欠陥,原子の吸着などのため,半導体の表面近くにはそこに局在する表面電子状態ができている。この表面状態と固体の内側との電子のやりとりによって,通常,半導体表面でのバンドは接触面,または界面を形成する前から曲がっている。また半導体と金属とのヘテロ接合界面を形成するとき,欠陥ができてそれによる界面状態が形成されることもある。そのような界面状態が帯電すれば,界面のポテンシャル障壁に大きい影響が現れる。したがって,半導体-金属界面におけるポテンシャル障壁の高さと,仕事関数の差とは直接には関係しないことが多い。
執筆者:塚田 捷
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
2種の金属を接触させるとき、両金属の間に発生する電位差。2種の金属A、Bを接触させると、たとえばBからAへ電子が移動して、境界面に電気二重層が形成され、これが電位差を生ずる。接触電位差は、対(つい)になる金属の形・大きさには無関係であるが、表面状態に敏感である。接触電位差は1ボルト程度もあるが、これによって電流を流すことはできない。一度接触させたA、Bの金属を引き離すと、AはマイナスにBはプラスに帯電する。この帯電を接触電気とよび、1797年ボルタにより発見された。接触電位差発生の機構は次のようである。金属内の自由電子は、最低エネルギーからフェルミ・エネルギーEf(電子が占有する最高エネルギーと考えてよい)の状態までを占有している。自由電子が金属表面から外に飛び出さないのは、表面にEfよりWだけ高いエネルギーの壁が存在するためで、Wを仕事関数とよぶ。Wは金属の種類により異なる。A、Bの金属を接触させると、Wの小さいほう(B)からWの大きいほう(A)へ、両者のEfが等しくなるまで電子が移動する。移動した電子は境界面にとどまって、A側はマイナスに、B側はプラスに帯電して電気二重層を形成する。接触電位差は仕事関数の差WA-WBに等しい。仕事関数が表面状態に敏感なため、それが接触電位差に反映するのである。A、B金属の接触していない側を第三の金属Cで接続すると、三者の間で瞬間的な電子移動がおこるが、三者のEfが等しくなると電子移動は止まるので、電流を流すことはできない。
[宮台朝直]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…したがって,光電子の最大運動エネルギーEmaxは,プランク定数をh,入射光の振動数をνとして,Emax=hν-Φで与えられることになる。また,二つの異なる導体を接触させたときに生ずる電位差(接触電位差)の大きさは,両者の仕事関数の差を電子の電荷で割ったものに等しい。 単体金属元素の仕事関数は,電気陰性度xと,おおよその直線関係, Φ≌(2.27x+0.34)eVで結ばれている。…
※「接触電位差」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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