物理学書。1687年ニュートンがハリーの助力で出版した力学の一般法則定式化の書。正式には『自然哲学の数学的原理』Philosophiae Naturalis Principia Mathematica。1713年、初版出版後におきた種々の批判にこたえ大幅な補足・加筆と「一般注」が追加され第2版が出版された。いわゆる「我仮説をつくらず」や絶対的時間・空間の支配者としての神の位置づけがここでなされた。1726年には第3版が出版された。『プリンキピア』出版の契機が1684年、フック、レン、ハリーらの「逆二乗力の作用を受けて運動する物体の軌道はいかなるものか」の問いにあったことはよく知られているが、ニュートンの力学研究は1664年のケンブリッジ時代に始まり、ガリレイ、ケプラー、デカルトら多くの先人の影響の下に思索を深め、1665~1666年の『雑記帳』には衝突論をはじめ、円運動、地球の自転で地上の物体が宇宙に投げ出されない理由など、独創的な展開がみられる。『プリンキピア』はこうしたニュートン自身の自然哲学上の体系化の書であり、同時に17世紀後半までのその分野の総決算の書でもある。
全体は、序文、定義、公理または運動の法則、ついで第一編物体の運動について、第二編物体について(抵抗ある媒質中における)、第三編世界体系について、で構成される。序文では、機械の学問を発展させるためにその学問を拡張し、思弁を排し、諸運動の原因である力をみいだし、これをもとに自然の諸現象を説明すると述べる。定義では、質量を物質の多寡と動かされにくさで、力を固有の力(慣性力)と加えられた力(衝突力・求心力)とに区別して論じ、これらの諸量が物質の空間での存在の仕方によって起動力、加速力、絶対力(求心力の源泉)と関係づけられ、加速的重力(重力加速度)と起動的重力(重量)の関係が振り子の実験をもとに比例関係であると述べる。公理ではいわゆるニュートンの三法則が、注解では絶対時間・空間の概念が述べられる。第一編では求心力と物体の運動、ケプラーの三法則が導出され、第二編ではデカルトの渦状宇宙論が力学的に支持しえないことが、第三編では重力理論にたって地上の運動から天体の運動までが統一的に論じられる。神の支配というニュートンの生きた時代の影を残しながら、本書は地上から天界に至る物質の力学的運動形態を統一的に表現したのである。
[井原 聰]
『ゲッセン著、秋間実他訳『プリンキピアの社会的・経済的基礎』(1986・法政大学出版局)』▽『S・チャンドラセカール著、中村誠太郎監訳『チャンドラセカールの「プリンキピア」講義』(1998・講談社)』
ニュートンの主著の一つ。1687年刊。原題は《自然哲学の数学的原理Philosophiae naturalis principia mathematica》だが,一般に《プリンキピア》と略称される。近代力学を完成させたといえるこの書物はラテン語で書かれ,3編から構成されている。まず,序文に続いて,基本的な力学概念,〈物質の量〉〈運動の量〉〈力〉が定義され,〈絶対的な時間〉と〈絶対的な空間〉が説明される。このような準備を整えたのち,近代力学にとってもっとも重要な三つの法則が提出される。すなわち今日の用語でいうと,慣性の法則,作用・反作用の法則,そして,質量と加速度の積が力に比例するという法則である。ニュートンが序文で明確に述べているように,運動の諸現象から自然界のさまざまな力を研究し,次にその力から他の現象を論証するという彼の目的に従って,第1編と第2編では運動についての一般的な命題が論じられる。とくに,第2編では,媒質中での物体の運動が取り扱われているが,ここから,ニュートンは音や光の現象も力学的に論じようとしていたことがわかる。そして,最後の第3編〈世界の体系について〉では,先の2編で証明された命題を用いて,天体の運動,とくに惑星の運動が論じられ,あらゆる物体相互の間に働き,それぞれの物体の質量の積に比例して,距離の2乗に反比例する万有引力の法則が提出される。このようにして,《プリンキピア》は古代以来なされてきた力と運動についての研究を集大成し,力学の数学的理論を完成させた。とりわけ,第3編は,コペルニクスの地動説がかかえていた多くの問題,ケプラーが発見した惑星の楕円軌道の問題に最終的な解答を与えた。このニュートンの力学には,古代や中世の影響が残っていたが,その後の微積分学の発展に伴い,真に近代的なものへと整備されていった。
執筆者:田中 一郎
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…《数学記号史》全2巻(1928‐29)は類書がない貴重な研究。《プリンキピア》のモットA.Motteによる英語訳を改訂した仕事も特筆される。そのカジョリ版は今日もっともよく利用される《プリンキピア》の版本の一つである。…
…この方法は実質的にはアポロニオスが円錐曲線についてすでに用いていたものであるが,ギリシアの幾何学とともに,ビエトの代数学を併用して,数と空間とを融合する考えを述べたのは,それからの数学に大きな影響を与えた。 ニュートンは,光学への著しい貢献もあり,化学や神学にも深い関心をもったが,主著《プリンキピア》(1687)において,それ以後の科学的自然観の基礎となるニュートン力学を展開したことの意義が大きい。アリストテレスは,力の働かない物体は静止しているとしたが,実は等速運動を続けるのであり,力は加速度を与えるものであることを見抜いたのはガリレイであった。…
…これら見かけの加速と負の加速の合成が5″T2であると考えられる。 ニュートンはその著《プリンキピア》の中で月の運動を論じており,これが月運動論の嚆矢(こうし)である。ニュートンに続いてA.C.クレロー,L.オイラー,J.ダランベール,P.S.ラプラス,ダモアゾーM.C.T.Damoiseau(1768‐1846),ラボックJ.W.Lubbock(1803‐65),ド・ポンテクーランP.G.de Pontécoulant(1795‐1874),プラーナG.Plana(1781‐1864),S.D.ポアソン,P.A.ハンセン,C.E.ドローネー,G.W.ヒル,J.C.アダムズ,ブラウンなどの理論が相次いで現れた。…
…したがって天体力学で最初に論ずるのは万有引力の法則に基づいてケプラー運動を演繹(えんえき)することであり,これを初めて行ったニュートンは天体力学の創始者といってよい。実際その著《プリンキピア》(1687)の中でニュートンは,太陽の摂動を受けた月の運動なども論じている。ただしニュートンは理論の展開をもっぱらユークリッド幾何学で行ったのでそこに適用の限界があった。…
… ガリレイに続いてイギリスにはニュートンが出た。彼の大著《プリンキピア》は1687年に刊行をみたが,これによって天文学はまったく新しい形をとるようになった。ある天文学史家はニュートン以前を〈幾何学的天文学の時代〉と呼び,ニュートン以後のある時期を〈力学的天文学の時代〉と呼んでいるが,〈二つの物体の間には距離の2乗に逆比例し質量の相乗積に比例する引力がはたらく〉という簡単な万有引力則が,遠く離れた天体の間に成立することが証明され,こうした万有引力則によって天体の運動や形状を論ずる学問が18世紀を通じて流行したのである。…
…そして,その後の彼の研究によって,万有引力の法則と力学の3法則を使えば,地上の物体の運動だけではなく,潮の満干や惑星の運動すら説明できることが示された。この力学研究は87年の《プリンキピア》にまとめられたのであるが,この結果,以前には独立して取り扱われていた天上の世界と地上の世界が同一の法則によって支配されており,単一の世界を構成しているということが明らかになった。彼の二項定理の発見,流率法,つまり,今日の微積分法の発見も1665年にはすでになされており,彼の力学研究に大きく貢献した。…
※「プリンキピア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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