パンドラの箱(読み)パンドラノハコ

デジタル大辞泉 「パンドラの箱」の意味・読み・例文・類語

パンドラのはこ【パンドラの箱】[戯曲]

原題、〈ドイツDie Büchse der Pandoraウェデキントによる戯曲。1904年発表。「地霊」とあわせてルル2部作と呼ばれ、ベルクのオペラ作品「ルル」の原作として知られる。

パンドラ‐の‐はこ【パンドラの箱】

ゼウスパンドラに持たせた、あらゆる災いの詰まった箱(本来は壺)。彼女地上に着いたとき好奇心から開けたところ、すべての災いが地上に飛び出したが、急いでふたをしたので希望だけが残ったという。
[補説]作品名別項。→パンドラの箱

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精選版 日本国語大辞典 「パンドラの箱」の意味・読み・例文・類語

パンドラ の 箱(はこ)

  1. ギリシア神話で、ゼウスがパンドラに渡した箱。あらゆる悪・不幸・禍を封じ込めてあった。彼女が好奇心からこの箱を開けたので、地上には不幸が広がり、「希望」だけが箱の底に残ったという。
    1. [初出の実例]「かくて、小林の家庭は一箇の雑然たるパンドラの箱だ」(出典:宣言(1915)〈有島武郎〉)

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故事成語を知る辞典 「パンドラの箱」の解説

パンドラの箱

さまざまな災いを引き起こす原因となるもののたとえ。

[使用例] この竜宮のお土産も、あの人間のもろもろの禍の種の充満したパンドラの箱の如く、乙姫の深刻な復讐、或いは懲罰の意を秘めた贈り物であったのか[太宰治*お伽草紙|1945]

[使用例] この世界はいわば、地殻に封じこめられたパンドラのはこなのよ。そして私たちはこれからその中心を通り抜けようとしているわけ[村上春樹*世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド|1985]

[由来] ギリシャ詩人ヘシオドスの「仕事と日」に出てくる話から。太古の昔、人間たちは、神、プロメテウスによって火を使うことを教えられました。これによって人間たちの暮らしは豊かになりましたが、同時に、火を用いて争いをするようにもなりました。そこで、全能の神、ゼウスは、人間たちを懲らしめるために、パンドラという女性に箱(本来は壺)を持たせて、人間界へと送り込みます。絶対に開けてはいけないと言われていたその箱を、好奇心にかられてつい、開けてしまう彼女。すると、中から疫病、犯罪、悲しみなどなど、ありとあらゆる災いが飛び出してきました。慌てたパンドラが箱を閉めた結果、箱の中には「希望」だけが残された、ということです。

[解説] ❶火の使用は科学技術の源。技術が発展すると災いも広がっていくという、現代の私たちが直面している大問題が、紀元前八~七世紀のヘシオドスによって、早くも語られていたのは、とても興味深い事実です。❷現在では、「パンドラの箱を開ける」の形で、「災いを招くきっかけを作る」ことを指してよく使われます。

〔英語〕Pandra's box.

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とっさの日本語便利帳 「パンドラの箱」の解説

パンドラの箱

ゼウスはすべての悪を封入した箱を地上最初の女性パンドラに贈り、決して開けてはならないと命ずる。パンドラが地上で好奇心から箱を開くと、あらゆる災禍が外へ飛び出したが、彼女があわてて蓋をしたので「希望」だけが底に残った。

出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報

デジタル大辞泉プラス 「パンドラの箱」の解説

パンドラの箱

1929年製作のドイツ映画。原題《Die Büchse der Pandora》。監督:G・W・パプスト、出演:ルイズ・ブルックス、カール・ゲーツ、フリッツ・コルトナーほか。

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世界大百科事典(旧版)内のパンドラの箱の言及

【パンドラ】より

プロメテウスが天上の火を盗んで人間に与えたとき,怒ったゼウスは,人間どもにその恩恵の代償を支払わせるべく,鍛冶の神ヘファイストスに命じて粘土で女を造らせ,他の神々から女性としての魅力や美しい衣装などを授けられた彼女をパンドラ(〈すべての贈物を与えられた女〉の意)と名づけて地上に下し,プロメテウスの弟のエピメテウスに与えた。このとき彼女は神々からのみやげとして1個の壺(いわゆる〈パンドラの箱〉)を持参していたが,好奇心にかられた彼女がそのふたを開けると,中からあらゆる災いが飛び出して四方に散った。ただひとつ〈希望〉だけは,急いで彼女がふたを閉じたため,壺の底に残ったという。…

【パプスト】より

…オーストリア出身。戦後ウィーンの荒廃をフロイト的な心理描写と即物的リアリズムで描いた《喜びなき街》(1925)をはじめ,《パンドラの箱》《淪落(りんらく)の女の日記》(ともに1929)など,ドイツのサイレント映画の最後を飾る名作を発表。《喜びなき街》ではスウェーデン女優グレタ・ガルボを売り出し,《パンドラの箱》《淪落の女の日記》ではアメリカ女優ルイズ・ブルックスを永遠のバンプ,〈ファム・ファタール(運命の女)〉に仕立てた。…

【ブルックス】より

…ハーバート・ブレノン監督《或る乞食の話》(1925)の端役で映画デビュー,〈ボブ・ヘア〉スタイルを売りものに〈フラッパー〉と呼ばれた当時のモダン・ガールを型どおりに演じつづけたのち(《百貨店》1926,《夜会服》1927,等々),ハワード・ホークス監督《港々に女あり》(1928),ウィリアム・A.ウェルマン監督《人生の乞食》(1928)で才能ある女優として認められる。しかし真価を示した代表作は,G.W.パプスト監督に招かれて出演したドイツ映画《パンドラの箱》《淪落の女の日記》(ともに1929)であり,とくに《パンドラの箱》(原作はドイツの劇作家フランク・ウェーデキントの連作戯曲《地霊》《パンドラの箱》)で演じた娼婦ルルによって世界的に注目を浴び,その後もルルはウェーデキントの原作よりもむしろこの映画によって伝説的な存在となり,のちにジャン・リュック・ゴダールは,彼の映画《男と女のいる舗道》(1962)でアンナ・カリーナが演じた娼婦ナナに,ルルのヘア・スタイルとメーキャップをさせたといわれる。ブルックス本人は,パプスト原案,ルネ・クレール脚本によるフランス映画《ミス・ヨーロッパ》(クレールが監督する予定だったがプロデューサーと折り合わず,イタリア人のアウグスト・ジェニナ監督作品になった)に出演したあとハリウッドに帰るが,作品に恵まれず,ナイトクラブのダンサーやセールスガールになるなど不遇の時代を送り,40年代後半から世間の目を避けて隠棲するうち,50年代半ばに《パンドラの箱》を中心にした旧作がヨーロッパとアメリカでリバイバル上映されたのを機に〈ルル・フィーバー〉が高まり,55年には〈シネマテーク・フランセーズ〉のアンリ・ラングロアが映画生誕60年記念展に〈不滅の女優〉としてブルックスの写真を飾り,またサラ・ベルナール主演の《ギーズ公の暗殺》(1908)がつくられてから50年後の記念の催しにも彼女を招待した。…

【ルル】より

ベルクの晩年のオペラで,《ウォツェック》とともに20世紀最大のオペラの傑作と評価されている。ベルクは1929年にウェーデキントの戯曲《地霊》と《パンドラの箱》をもとに台本を作ってオペラの作曲にとりかかり,まず34年に《ルル交響曲》という形でまとめて師シェーンベルクの60歳の誕生日に彼にささげた。しかしオペラは35年のベルクの死によって第3幕の途中で中断されたままになった。…

※「パンドラの箱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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