改訂新版 世界大百科事典 「ヒヨドリ」の意味・わかりやすい解説
ヒヨドリ (鵯)
bulbul
スズメ目ヒヨドリ科の鳥の総称,またはそのうちの1種を指す。ヒヨドリ科Pycnonotidaeの鳥は全長14~30cm,くちばしは細長く,やや下方に曲がり,脚は弱くて短い。尾は比較的長い。羽毛は一般に長くて柔らかく,後頭の羽毛は毛状になり,冠羽になっている種が多い。羽色はじみで,上面がオリーブ緑色,褐色,黄色などをしていて,下面は淡く,頭部や下尾筒によく目だつ赤色,黄色,白色などの斑をもつ種が少なくない。林縁,疎林,樹木の多い市街地にも見られるが,森林の樹冠部で群れで生活する種が多い。主食は,木の実や果実で,花みつを吸ったり,昆虫類なども食べる。アフリカ,アジアに約120種が分布しており,熱帯地方の森林に多い。
ヒヨドリHypsipetes amaurotis(英名browneared bulbul)はヒヨドリ類の中でももっとも北方まで進出した種で,日本,朝鮮半島南部,台湾,フィリピン北端のバブヤン諸島に分布する。全長約28cm,体の割りには頭が小さくて,尾が長く,ほっそりした体つきをしている。頭頂部は青灰色で,羽毛の先端がとがり,ほおはくり色である。上面は灰褐色,下面は淡い。シイ,カシ,クスなどの常緑樹林に多いが,落葉樹林にも見られ,都市の中でも繁殖している。繁殖期には,ヒーヨヒーヨという特徴のある甲高い単純な声のほかに,ピールリピールリピなどと複雑な鳴声も出す。おもに樹上で大型の昆虫類をとり,飛んでいる昆虫を追いかけてとることもある。5~7月にかけて,樹上に細い枝や枯草を用いたわん型の巣をつくり,1腹4~6個の卵を産む。雌だけで抱卵し,約14日で雛がかえる。雛は両親の給餌を受け,10~12日で巣立つ。秋から冬の間は疎林や市街地にすみ,単独か小さな群れで生活している。この時期には,ナンテン,ネズミモチ,タチバナモドキなどの木の実を主食とするが,先端がブラシ状になった舌でツバキ,ウメなどの花みつもなめ,また地上に降りてハコベや野菜の葉などを食べる。
関東地方以南の暖かな地方に多い。多くの地方で1年を通して観察されるが,季節的な移動をするものがかなりあり,山地で繁殖した個体が秋から冬に平地に移動したり,東北地方以北で繁殖した個体が暖かな地方で越冬することが知られている。小鳥類は一般に夜間に渡るが,ヒヨドリの春秋の移動は大きな群れをつくって波状に飛びながら昼間に渡っていく。北海道から九州,さらに小笠原諸島,硫黄列島,南大東島までの各地で繁殖し,九州以南の島では留鳥である。日本産のヒヨドリ類としては,ほかにシロガシラが琉球の八重山諸島に留鳥として分布し,林縁や人家近くの林で繁殖。
執筆者:齋藤 隆史
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報