日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビクスビ鉱」の意味・わかりやすい解説
ビクスビ鉱
びくすびこう
bixbyite
酸化マンガン(Ⅲ)の鉱物。ブラウン鉱とは化学組成のみならず、原子配列も近似し、両者は肉眼的にはほとんど区別できない。ただ日本では、本鉱の産出はきわめてまれである。合成Mn2O3は擬等軸、斜方(直方)晶系に属する。天然産のものに対しては、パトリッジ鉱patridgeiteという名称が与えられ、等軸晶系のビクスビ鉱と区別される。自形は立方体あるいはこれを基調とし、その各頂点が3個の鈍角二等辺三角形の面で占められることがある。また結晶面上に条線が発達することがある。広域変成岩中に発達する変成層状マンガン鉱床中比較的酸化環境で生成されたものの中や、これに接する母岩の変成岩に産する。また特殊な流紋(りゅうもん)岩の空隙(くうげき)中にも産し、このように二つのまったく関連性のない産状をもっている。日本では長崎県西海(さいかい)市大串でマンガン鉱床の母岩から確認されている。
共存鉱物はマンガン鉱床ではブラウン鉱、白雲母(しろうんも)、石英、紅簾石(こうれんせき)、満礬(まんばん)ざくろ石、ホランド鉱、斜長石など。流紋岩中ではトパーズ、石英、満礬ざくろ石、緑柱石などと共存する。同定は黒色金属ないし亜金属光沢の外観による。比較的高い硬度で、形態が出ていればわかりやすい。ブラウン鉱は形態の出現が多くないが、ビクスビ鉱は等軸晶系で正八面体を基調とするものが普通である。しかし塊状になるとまったく区別できない。命名は、アメリカのユタ州トーマス・レインジThomas Rangeで最初にこれを発見した鉱物商メイナード・ビクスビーMaynard Bixby(1853―1935)にちなむ。
[加藤 昭 2018年7月20日]
ビクスビ鉱(データノート)
びくすびこうでーたのーと
ビクスビ鉱
英名 bixbyite
化学式 (Mn3+,Fe3+)2O3
少量成分 Al,Ti,Mg,Si
結晶系 等軸
硬度 6~6.5
比重 5.03
色 黒
光沢 金属
条痕 黒
劈開 ほとんど無
(「劈開」の項目を参照)