改訂新版 世界大百科事典 「ビラーニ」の意味・わかりやすい解説
ビラーニ
Giovanni Villani
生没年:1280ころ-1348
中世イタリアの年代記作者。フィレンツェの商人の家に生まれ,大商人ペルッツィ家の会社に入り,1300年ごろからフランスのパリ,ブルージュなどで商業活動に従事した。08年ごろ故郷に戻り,ブオナッコルシ家の会社に入ってこれを有力な商社に育てた。16年ごろからフィレンツェの都市政治に進出し,重要な役職を歴任した。しかし担当していた市壁建設事業の会計について不正の疑いをかけられて失脚した。さらに42年にはおりからの不況のなかでブオナッコルシ商社が倒産し,不本意な晩年を送った。48年の〈黒死病〉で死去。彼の年代記(クロニカ)は全12巻,旧約聖書の物語に始まり1340年代に及ぶ長大な史書である。前半はすでに書かれている年代記類を編纂したもので,天地の創造から最後の審判にいたる人類の歴史を記述する中世的な世界年代記の影響が強い。後半は直接的な見聞や伝聞,商人の書簡などを利用してまとめあげた〈現代史〉である。イタリア諸都市,北西ヨーロッパ,地中海地域などの事情についても詳細に述べられているが,中心をなすのはフィレンツェの歴史であり,祖国の繁栄をたたえることがその目的である。政治だけでなく,経済や都市制度についても記述されており,中世市民の関心のあり方をうかがわせる。中世の教養語であるラテン語でなく,俗語で書かれていることは市民文化の発展を示している。またダンテの《神曲》の影響も認められる。14世紀前半のフィレンツェに関する重要な史料である。数字をあげて都市の繁栄を説明している部分があるので,彼を〈統計的思考の創始者〉とする人もいるが,その数字は必ずしも正確ではなく,慎重に検討する必要がある。彼の死後,年代記は弟のマッテーオ,その子のフィリッポによって書き継がれ,1364年まで記述されている。
執筆者:清水 廣一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報