コールタールや骨油中に存在する窒素1原子をもつ5員環芳香族複素環化合物。特異な芳香をもつ無色の液体で,沸点130℃。放置するとしだいに褐色をおびる。有機溶媒にはよく溶けるが,水にはほとんど不溶。電子線回折による構造を図に示す。炭素-炭素結合の長さからみると二重結合はかなり局在化しているが,共鳴エネルギーは約31kcal/molと報告されており,チオフェンやフランと同程度の芳香族性をもつ。窒素-水素結合をもつがその塩基性はきわめて弱く,希酸にはほとんど溶けない。濃塩酸などには溶けるが,ただちに重合する。しかしこの水素は活性で,アルカリ金属,グリニャール試薬等によって置換される。
置換反応に対してはベンゼンと同様にふるまい,まずα位(2,5位)ついでβ位(3,4位)に置換が起こる。ただし重合が起こるためスルホン化,ニトロ化は起こらない。ピロールおよびその誘導体には呈色反応を示すものがある。濃塩酸で湿したマツ,スギ材にふれると,それらに含まれるアルデヒド類と縮合して赤色を呈する(松材反応)。エールリヒ試薬(p-ジメチルアミノベンズアルデヒドの塩酸溶液)では深赤色を(エールリヒ反応),エチルアルコールの存在下でジアゾスルファニル酸により赤色になる(ジアゾ反応)。これらの反応は尿中のウロビノーゲン(ピロール核をもつ化合物)の検出に用いられる。骨油,石炭タールなどに存在し,またアルカロイド,ポルフィリンなど多くの天然有機化合物の構成成分である。
執筆者:竹内 敬人
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C4H5N(67.09).アゾールともいう.コールタール中に少量,骨油中にかなり多量に存在する.2-フランカルボン酸アンモニウムの加熱,フランとアンモニアをAl2O3上で加熱,あるいはスクシンイミドを亜鉛末と蒸留するなどの方法で生成する.クロロホルム様の特有な臭気をもつ無色の液体.沸点130~131 ℃.0.9691.1.5085.λmax 209,240 nm(ε 6730,300).有機溶媒に易溶,水に難溶.空気中で着色する.そのNH基の塩基性はきわめて弱い(pKb 13.6)が,反応性は高く,酸性では重合が起こって樹脂化しやすい.金属化合物はピロール誘導体の合成に用いられる.たとえば,ピロール環は芳香族性を有し,環の水素のハロゲン置換,ジアゾニウム塩のカップリング,酸無水物によるアシル化などが容易に進行する.ピロールという名称はギリシア語の“火のように赤い”という意味であり,ピロールおよびその誘導体は希塩酸溶液中でピロール赤を生成する.亜セレン酸による酸化反応やケイ酸,モリブデン酸アンモニウムおよび硫酸の混合溶液との反応では濃青色のピロール青を呈するので,これらの検出にも用いられる.[CAS 109-97-7]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
5員環内に窒素原子をもつ複素環式化合物の一つ。コールタール中に少量含まれているほか、骨油中にも存在する。
アルミナを触媒としたフランとアンモニアとの反応、あるいはブチンジオールとアンモニアの酸化トリウム‐アルミナ触媒上での反応により合成される。特有なにおいをもつ無色の液体。水には溶けにくいが、エタノール(エチルアルコール)、エーテルなどの有機溶媒とは任意の割合で混じり合う。塩基性はきわめて弱く、希酸とは塩をつくらない。ピロール環は芳香族性をもっているので、付加反応のほかに置換反応を行う。比較的安定であり、ピロール環を四つ含むテトラピロール環系はクロロフィル、ヘモグロビンのポルフィリン環の構成単位として重要な役割を果たしている。
[廣田 穰 2015年7月21日]
ピロール
分子式 C4H5N
分子量 67.1
融点 -23℃
沸点 130℃
比重 0.9691(測定温度20℃)
屈折率 (n) 1.5085
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