日本大百科全書(ニッポニカ) 「フィッチ」の意味・わかりやすい解説
フィッチ(Val Logsdon Fitch)
ふぃっち
Val Logsdon Fitch
(1923―2015)
アメリカの物理学者。ネブラスカ州メリマンに生まれる。第二次世界大戦中は陸軍に所属、ロス・アラモスにおいてマンハッタン計画(原子爆弾製造計画)に参加し、原子物理学を学んだ。1948年にモントリオールのマッギル大学を卒業、コロンビア大学でレインウォーターの指導を受け、1954年に博士号を取得した。プリンストン大学の講師となり、1956年準教授、1960年教授に昇格、1976年には物理学部門の部長に就任した。
レインウォーターとの共同研究で、μ粒子(ミューオン)原子の電磁崩壊を観測した。その後、研究の対象をK中間子に移し、1965年にクローニンらとともにK中間子崩壊の実験を行った。この結果、中性のK中間子はCP保存の破れ(時間反転の対称性の破れ)を示すことを発見した。Cとは荷電共役変換、Pとはパリティ変換を意味し、当時CP保存の原則は守られるとみられていたが、それが否定されたことにより、素粒子論に大きな影響を与えた。この業績に対して1980年にノーベル物理学賞をクローニンとともに受賞した。
[編集部]