改訂新版 世界大百科事典 「フタバアオイ」の意味・わかりやすい解説
フタバアオイ (双葉葵)
Asarum caulescens Maxim.
温帯林の林床に生えるウマノスズクサ科の夏緑多年草。カモアオイともいう。根茎は太く,地表をはい,先端から名前のように通常は2枚の葉を出す。葉は長い葉柄を有し,円心形で,質は薄く,縁にはまばらな毛がある。春,葉の展開とともに葉間から葉柄よりも短い花梗を出し,その先に1筒の花をうつむきかげんにつける。萼片は汚黄白色で紫褐色を帯びる。基部は筒状となり,先端の裂片は完全に反り返るので,花の全形は椀状に見える。花被は花後も宿存し,果実の成熟とともにくずれ,種子を散布する。フタバアオイは,京都の賀茂神社や松尾大社の神事に使われ,また徳川家の家紋は3枚のフタバアオイの葉を図案化したものである。本州中部から四国,九州の渓流沿いの岩石崩壊地で,湿潤ではあるが水はけの良い場所を好む。
フタバアオイ属Asarumは,東アジアを中心に,ヨーロッパや北アメリカにも分布し,常緑性の種と,夏緑性の種がある。日本や中国大陸に分布し,時には別属とされるサイシン類には本州から北九州の山地,中国大陸に分布するウスバサイシンA.sieboldii Miq.や,北海道やサハリンに分布するオクエゾサイシンA.heterotropoides Fr.Schum.,日本の中国,東北地方に分布するその変種のケイソンサイシンvar.mandshuricum(Maxim.)Kitagawaなどがある。それらの根茎を乾燥したものは細辛(さいしん)と呼ばれ,精油のユウゲノールeugenolやアサリニンasarininを含有し,芳香と辛みを有する。咳止め,発汗,胸痛などに用いられる。北アメリカ産のカナダサイシンA.canadensis Mich.(英名wild ginger)やヨーロッパ産のA.europaeum L.(英名asarabacca)も,薬用や香辛料に用いられた。
執筆者:堀田 満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報