生痕化石
せいこんかせき
trace fossil
ichnofossil
古生物の各種の生活記録が地層の内部や表面に保存されている化石。生活化石、痕跡化石ともいう。生痕には、底生生物の底質表面におけるさまざまな移動の記録や、底質内部に掘り進んだ穿孔跡(せんこうあと)や生息(住居)跡のほか、陸上動物の足跡、住居跡などがある。そのほか、軟体動物や魚類、哺乳(ほにゅう)類などの排泄(はいせつ)物が保存された糞石(ふんせき)coproliteや、爬虫(はちゅう)類の胃の中にあって消化の補助となった胃石(いせき)gastrolith、および各種の動物の卵の化石も知られている。アメリカや中国およびモンゴルからは卵の並んだ恐竜の巣と思われるものが発見されている。
オーストリアの古生物学者アーベルは『過去の生物の痕跡』Vorzeitliche Lebensspüren(1935)のなかで、生痕化石の種類や研究の方法と意義をまとめている。そのなかには、古生物の病型や奇形の化石、共生・寄生関係を示すものも含まれている。現生種も対象に含めたこの種の研究を生痕学ichnology、排泄物や足跡の研究をそれぞれ糞形学coprology、足痕学pedalogyとよび、野生動物の保護や狩猟者の動物探索の情報資料となっている。
生痕化石は古生物が生活した場所に残されているため、古生物の生態や生活の復元に役立つ。また10億年前よりも古い地層から発見されているため、無脊椎動物の起源を考えるための貴重な資料ともなっている。生痕化石の研究は古生痕学palaeoichnology(化石生痕学)とよばれ、古生物学の重要な研究部門となっている。ふつう生痕化石には、生痕を残した生物の体の化石が伴わないことが多く、偽化石を生痕化石と見誤ることが多く、その判定には現在の生痕と比較するなどの慎重な検討が望まれている。
[大森昌衛]
『リチャード・G・ブロムリー著、大森昌衛監訳『生痕化石――生痕の生物学と化石の成因』(1993・東海大学出版会)』▽『福田芳生著『生痕化石の世界――古生物の行動を探る』(2000・川島書店)』
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知恵蔵
「生痕化石」の解説
生痕化石
化石のうち、生物の生活の証拠を残したもの。地層や、化石の上や中に残された構造(足跡や這い跡、せん孔、食事の跡、排泄物などの化石)。生物の遺骸そのものを体化石というのに対応する用語。恐竜の糞石(ふんせき)=コプロライト、胃石、足跡などから恐竜が生存した時の具体的行動や生態が分かる。カナダで発見された特大の糞石は、長さ44cm、高さ13cm、幅16cmに達し、骨の破片含有率が高く(30〜50%)、獣脚類の摂食・消化の経緯が分かる。一般に生物の休息跡、居住跡、座食跡、獲物を追った跡、這い跡などが識別され、生活の場が保存されていることは、古生物の生活様式や機能の復元上、重要。
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生痕化石【せいこんかせき】
古生物の生活の跡が化石となって残ったもの。痕跡化石,生活化石とも。足跡や巣穴,排泄(はいせつ)物,骨折した跡のある骨など。古生物の生活や行動,共生関係,生息環境などを調べるうえで重要な化石である。
→関連項目エディアカラ動物群
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デジタル大辞泉
「生痕化石」の意味・読み・例文・類語
せいこん‐かせき〔‐クワセキ〕【生痕化石】
堆積物の上や中に残された、過去の生物の生活の跡。生物本体ではなく、足跡・這い跡・巣穴・排泄物などの化石。生痕。生活化石。痕跡化石。
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生痕化石
生物体によって残された跡の一般的な名称[Abel : 1935, Seilacher : 1953].古生物が生活したことを示す痕跡.
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せいこんかせき【生痕化石 trace fossil】
痕跡化石ともいう。ドイツ語のLebensspurenは,生活活動もしくは生命現象の痕跡ということで化石の意味を含まないが,それらの研究はイクノロジーichnology(語源からいえば足痕学)とよばれる。生痕化石を研究する学問はパルイクノロジーpalichnology(いわゆる古生痕学)である。生痕化石はイクノフォッシルichnofossilとよばれることもあるが,この語はギリシア語とラテン語の合成語であるために批判がある。
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世界大百科事典内の生痕化石の言及
【化石】より
…これを核ないし石核(ドイツ語ではSteinkern)という。 古生物の生活活動の痕跡が岩石や鉱物の形で残存しているものは生痕化石と呼ばれる。生痕化石はいろいろの基準によって分類される。…
※「生痕化石」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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