翻訳|fusel oil
アルコール発酵の際,酵母によりエチルアルコールに随伴して微量に生成される炭素数3~5のアルコール類およびそのエステルを主成分とする混合物の総称。炭素数2のエチルアルコールより水に溶けにくく,多量に水に加えると水面に油のように浮くのでフーゼル油と呼ばれる。
清酒やビールのもろみのように,酵母の増殖のための必要量以上のアミノ酸があると,酵母はこれを菌体内に取り込みその一部をアルコールに変える。例えば,炭素数6のアミノ酸であるロイシンから炭素数5のイソアミルアルコールが生成し,同様炭素数5のバリンから炭素数4のイソブチルアルコールが生成する。一方ブドウ酒もろみのように,酵母の増殖に必要なアミノ酸が少ない場合には,ブドウ糖からのアミノ酸生成が盛んとなり,アミノ酸にいたる中間体からイソブチルアルコールやイソアミルアルコールが生成する。これらの高級アルコールは発酵もろみ中の酢酸その他の脂肪酸と一部結合してエステルとなる。
フーゼル油は酒の香気成分として重要なもので,酒の種類,製法により組成が異なるので,酒に特徴ある香気を付与する役割を果たしている。一方,アルコール類は炭素鎖が長いほど,脂質に溶けやすく毒性も強くなる。例えば,エチルアルコールの毒性を1とすればイソブチルおよびイソアミルアルコールの毒性は2.5~3.5になるので,フーゼル油が二日酔いの原因といわれている。しかし酒類に含まれるフーゼル油の量はわずかで,アルコール類の毒性の強さと酒中の含有量から計算したフーゼル油の酒害における関与率は清酒,本格焼酎,ウィスキーのいずれも1~2%程度で,残りの99~98%はエチルアルコールの過剰摂取による“飲み過ぎ”である。なお酒類中のフーゼル油含量は,醸造酒よりも二日酔いしないといわれる蒸留酒のほうが多い。フーゼル油は医薬品,溶剤の材料にもなる。
執筆者:菅間 誠之助
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デンプンや糖類の発酵でエタノール(エチルアルコール)をつくる際、精製時の副産物として分離される黄色ないし褐色の液体(比重0.81~0.83)。用いる原料によって組成も変わるが、主成分はイソアミルアルコール、活性アミルアルコールで、そのほかイソブチルアルコール、n‐プロピルアルコール、その他の高級アルコールが含まれる。化学処理や蒸留などによって精製したものは、ほぼ前記2種のアミルアルコールの混合物であり、そのままか、あるいは酢酸エステル(通称は酢酸フーゼル)にして、アルキド樹脂、ニトロセルロースなど合成樹脂類の溶剤に用いられる。
[松田治和]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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