日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブラシノライド」の意味・わかりやすい解説
ブラシノライド
ぶらしのらいど
brassinolide
植物ホルモンの一種。一般に植物の成長を促進する。アメリカ農務省(USDA)研究所のミッチェルJ. W. Mitchellらは、1970年セイヨウアブラナBrassica napus L.の花粉に新しい植物成長物質が含まれることを見つけ、ブラッシンと名づけた。苦心の末、1979年40キログラムもの花粉から4ミリグラムの活性物質の単離に成功して、その構造がグローブM. D. Groveらによって決定され、ブラシノライドと命名された。ブラシノライドは新しい型のステロイド化合物である。その後、ブラシノライドは広く植物界に存在することがわかり、類縁物質も多数単離されたので、これらを総称してブラシノステロイドbrassinosteroidとよぶ。
ブラシノライドは一般に植物の成長を促進するが、とくに茎の成長には必須(ひっす)のホルモンである。ブラシノライドが合成されない突然変異体は矮性(わいせい)を示し、葉の成長も一般に抑制されるばかりでなく、形状も異常になる。また、暗所で育てても明所で育てたような形状を示すので、光の関与する形態形成と関係があると考えられている。ブラシノライドは細胞の導管・仮導管への分化に必要である。特徴ある作用として、ブラシノライドで処理すると、植物は耐寒性、耐塩性、耐熱性、耐病性、耐薬害性など各種ストレスへの耐性をもつようになる。
ブラシノライドはステロールから生合成され、直前の前駆体はカスタステロンである。多く単離されている類縁体ブラシノステロイドの大部分は合成経路上の中間物質である。
[勝見允行]
『高橋信孝編『植物生活環の調節』(1990・東京大学出版会)』▽『勝見允行著『植物のホルモン』(1991・裳華房)』▽『増田芳雄編著『絵とき 植物ホルモン入門』(1992・オーム社)』▽『高橋信孝・増田芳雄編『植物ホルモンハンドブック』下(1994・培風館)』▽『小柴共一・神谷勇治編『新しい植物ホルモンの科学』(2002・講談社)』